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井戸の中
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第三章

「心をな」
「何っ、読心の術かよ」
「そういうものだと考えればいい」
 声はまた応えてきた。
「それをした」
「へえ、俺の心を読んでるのならわかるよな」
「この場のことを探りに来たのだな」
「如何にも」
 自分の心を読まれたことは腹立たしく思っていた。しかしここはあえてそれに乗ってそのうえでその声に対して問い返すのだった。
「じゃあ聞くぜ。ここには何があるってんだ?」
「我がいる」
 声はこう答えてきたのであった。
「我がな」
「そのあんたは何者なんだ?」
 今度はそのことを尋ねるのだった。
「一体よ。人間とかそういう存在じゃねえよな」
「かつては人間だった」
 声はこうも答えてきたのだった。
「かつてはだ」
「亡霊とかそんなものかよ」
 そうした存在も過去幾度も逢い戦ってきた。長い冒険者稼業ではそうしたアンデットモンスターとの戦いもしょっちゅうであるからだ。
「あんたはよ」
「それでもない」
「確かに実体はないがだ」
「んっ!?」
 声が複数のものになったことに気付いたのだった。
「何だ?一人じゃねえのかよ」
「いや、一つだ」
「我は一つだ」
「そう、一つだ」
 こう言ってきたのであった。
「我は一つだ」
「かつては無数に分かれていたが今は一つだ」
「そうだ、一つだ」
 声は言っていく。ムキハを取り囲むようにしてだ。
 ムキハはこのことにも驚いていた。
「俺の周りを囲んできやがったか」
 そのことを呟いたのだった。
「この俺の」
 彼は忍者としては最高位にある。冒険者達の中でもトップクラスの忍者だ。その彼が気付かれないうちに周りを取り囲まれてだ。驚かずにはいられなかった。
「只者じゃないのは間違いねえか」
 それをあらためて認識した。そうしてだった。
 さらに声の話を聞いていくのであった。
「この街ではかつて戦いがあった」
「あの大戦の最後で」
「街は滅んだ」
「ああ、それは知ってるぜ」
 こう声に応えた。その話を聞いて。
「それで街は滅んだんだよな」
「そうだ」
「その通りだ」
「その時にだ」
「全てが失われたのだ」
「ってことはだ」
 彼は声を聞いてから言った。それは既に察していたことであったがそれをあえて言ったのである。
「あんた達はあれだな。この街の住人だったんだな」
「古のことを伝えていた」
「この世の神々のことをだ」
「神々ねえ」
 それを聞いてまずは頷いたムキハだった。
「それでそれはどんな神様なんだ?善とか中立とか悪に属している神様達のことなら俺はもう知ってるから言わなくてもいいぜ」
「違う」
「太古の神々だ」
「その神々のことをだ」
 知っていると言ってきたのである。

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