第6章 流されて異界
第116話 負傷
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いの能力は持って居る心算ですから。
それまで目の周辺を覆っていた右手を外し、強く閉じて居た瞳をゆっくりと開いて行く。俺を覗き込むかなり整った容貌。周囲に集まっているチームメイト。
……メガネ越しの感情を表す事の少ない瞳と視線を合わせた瞬間、小さく首肯いて魅せる俺。大丈夫。吐き気もなければ、痛みもなくなっている。
「ありがとう、長門さん。もう大丈夫やから」
未だに名前の方ではなく、苗字で彼女を呼ぶ俺。もっとも、四六時中いっしょに居るので長い間ともに暮らして居るような気がしていたけど、実際は未だ半月程度。流石に未だ皆の前で名前を呼ぶのは不自然かな、と感じているからなのですが。
ただSOS団の皆は、俺と有希が少なくとも今年の二月以前から知り合いだったと知っているので……。
相変わらず、俺が名字を呼ぶ度に瞳のみで哀を表現する有希。これは彼女にしては強い意志の表示。多分、それほど精神的に強い拒否がある、と言う事なのでしょうが……。
しかし、それも僅かな瞬間。そして、上から俺の瞳を覗き込んだ後――
少し首を横に振った。
「未だ無理」
【あまりにも回復が早いと、周りに不信感を抱かせる。あなたが頭部に死球を受けたのは事実】
かなり素っ気ない現実の言葉に因る答えと、【念話】に因る詳しい説明。但し、彼女の場合は霊道で繋がっている為に、ダイレクトに感情が伝わってくる場合がある。
確かに、元々、豊かな感情表現が出来る存在ではない。しかし……。
「長門さんの言う事は正論やし、俺の事を心配してくれているのも分かるけど……」
しかし、今は野球の試合中。何時までも試合を中断させて置く訳には行かない。
まして、頭部に死球が当たったとしても必ずしも重症と限った訳ではない。奇跡的に無傷で終わる可能性だってある。
そう反論を試みてみる俺……なのですが……。
しかし、軽く肩を押さえている有希の手は動かず。瞳も俺が動く事を良しとして居ない事は確実。
タバサにしても、有希にしても、どちらも同じ。自分が決めた事は簡単に折れたりはしない。ただ、そうかと言って……。
このままズルズルと時間を使うのも問題あり。現在の状態が遅延行為に関するルールには抵触する状態だとは思いませんが、それでも、この審判団ではその辺りを恣意的に解釈される危険性が有ります。
試合進行の妨げをした。これは退場を宣告される可能性のある危険な状態。
さて、どうしたものか。悪知恵のひとつやふたつならひねり出せるのですが、その為には……。
有希の説得は諦め、こんな場合に使用可能なルールを思い出そうとする俺。その俺に対して、状況を見守っているだけで有った我がクラスの担任が俺の傍に膝をグランドに付けた形でしゃが
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