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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第116話 負傷
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《うつしみ》を完全に押さえられる自信はありません。
 ただ、そうかと言って、これ以上の失点は命取り。失点を抑えつつ、早い段階で追いつく必要があるのですが……。

 ドロ船に何か乗ったら沈んじゃうじゃないの。冗談なんか言っていないで、ちゃんと抑えなさいよ!
 ……などと騒ぐハルヒを軽く無視。ネクストバッターズサークルに入り、朝倉さんの打席に集中。

 初球。九組のエース、何処からどうみても一般人。日本人の中に紛れ込んだとしても見付け出す事は困難だ、と言わざるを得ないオーストラリアからの留学生。自称リチャードくんに因り投じられたのはインコース胸元のストレート。矢張り、球威はそれなり。俺に投じられた時の球威やキレを感じさせる事のない、棒球と言う感じの直球。
 おそらく、俺以外が相手の時は本当の実力を見せる心算はないのでしょう。どう考えて居るのか定かでは有りませんが、それでも、どのような容姿でも思いのままの存在のハズなのに、わざわざ目立つ事のない容姿を選択して居る以上、必要以上に目立ちたくはない、と考えるのが妥当ですから。
 一瞬、短く持って居たバットをバントの構えへと変え、そして直ぐに引く朝倉さん。

 しかし――

「ストライック!」

 相変わらず派手なアクションでストライクのコールを行う野球部所属の男子生徒(主審)
 ただ……。
 ただ、この位置からボールの高低は判断出来ます。しかし、コースに関してはある程度までしか分かりません。故に、正確なストライク・ボールの判断は出来ないのですが、セーフティバントの構えから朝倉さんがバットを引いたと言う事は……。
 一瞬、不満げな表情を浮かべた……いや、おそらくその表情の変化に気付いたのは俺だけでしょう。それぐらい短い間の不満顔。しかし、それも一瞬の事。直ぐに普段通りの微かな微笑みを湛えた表情に戻し――

 そして、何故か俺を見つめてから、軽く首肯いて魅せた。
 しかし……。
 しかし、その時の彼女の眼差しは普段の、少し俺の事をからかうような、何か試すような瞳などではなく、まるで鞘から抜き出された直後の刀のような、冴えた、そして鋭い光を湛えているかのように思われる。
 正直に言う。非常に冷たい。そして、誰からで有っても向けられたくはない光輝を放つ瞳。

 意味不明。何か伝えたい事が有ったのでしょうが、残念ながら彼女の表情や仕草から、今、朝倉さんが何を考えて居るのかが分かるほど、彼女との付き合いが長い訳でもなければ、深い訳でもない。
 有希や万結の相手をしているのと同じ訳には行きませんから。

 二球目のモーションに入る自称リチャードくん。その動きに呼応するかのように、九組の四番サードが二歩、三歩と前へと進み始める。
 投じられたのは一球目と同じ高目のストレート。
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