中編
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敵に見つかりやすくなるし、例え自分が住処の生態系の頂点にあっても、強い臭いを纏っていては狩りの成功率が大きく落ちてしまうのだ。故にこれを投げつけられたモンスターは狩人との戦いを一時放棄し、身を清めに向かうのである。
ピリカレラの機転によって、ルーヴェンは命拾いする形になった。彼女に助力するはずが、足を引っ張る形となってしまったのだ。
「すまない。俺のせいで……」
「ううん。貴方が無事でよかった」
テントの前にある平たい岩に、先ほど釣った魚を置く。ハンターたちからはサシミウオと呼ばれる、生で食べられる種類だ。岩の上で跳ね回る魚を押さえつけ、ピリカレラは小刀の一撃でとどめを刺す。
「……でも、ルーヴェンは何と戦っていたの?」
「え?」
意味の分かりかねる発言だった。ルーヴェンはナルガクルガと戦い、彼女もそこにいた。返答に窮するルーヴェンの前で、ピリカレラは小刀で魚を切り刻み始めた。トントンとリズミカルに音を立てながら。
「まるで、目の前にはいない『何か』を斬ろうとしているみたいだったけど」
ルーヴェンは目を見開いた。彼女の言葉が胸に突き刺さる。
ピリカレラの言う通りだった。ルーヴェンを突き動かしているのは憎悪……家族を奪った謎の竜への怒り。例え相手がリオレウスであろうと、ナルガクルガであろうと、彼の敵はその先にいた。半ば無自覚ではあったが、常に『あの竜』がルーヴェンの相手だったのだ。
この弓使いの少女は、そんなルーヴェンの感情を見抜いていた。彼女の問いに答えることができず、ルーヴェンは沈黙する。静寂の中に魚を刻む音だけが響いた。大きさを揃えて切り分けたり三枚に下ろしたりするのではなく、骨諸共切り刻んだ。竜車の中で食べていた魚肉団子を作っているのだ。
しばらくしてピリカレラは手を止め、ルーヴェンに小刀を差し出した。
「交替して」
「……ああ」
小刀を受け取り、ルーヴェンはすでに原型のなくなった魚をさらに刻む。ふと、戦いが始める前に聞きそびれたことを思い出す。彼女の戦う理由。兄の仇を憎んでいないのに、何故追うのか。何故憎まないでいられるのか。
「私たちにとって、竜は精霊の化身なの」
先にピリカレラが沈黙を破った。ルーヴェンの気持ちを察したかのように。
「でも人の血肉を食べた竜は汚れた精霊となって、その後も人間を食べようとする」
「つまり、あのナルガクルガは……」
ピリカレラはこくりと頷いた。ルーヴェンは合点が行った。あのナルガクルガの纏う、得体の知れない恐怖の正体。あくまでもあの迅竜は捕食者として、ハンターを獲物として狙っていたのだ。人肉の味を忘れられず、ピリカレラが「汚れ」と表現した狂気をはらんで狩人を狩ろうとしていた。そしてルーヴェンはその狂気に飲
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