中編
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並のベテランに匹敵する。天才と言っても過言ではない」
心配そうに尋ねるナライに、校長は静かな口調で答えた。好々爺然とした彼だが、その眼差しには若者たちを見守る優しさと、弱肉強食の中で生きるハンターとしての厳しさ、両方が存在していた。多くの若者の成長、巣立ち、そして時には死を見てきたのである。
「だが、竜への憎悪に憑かれておる。憎しみから得た力は自らを蝕むことに気づいておらん」
校長の正しさをナライは認めた。ナライ自身、幾度となくルーヴェンにそのことを説いてきたが、彼に理解させることはできなかった。結局ルーヴェンは竜への憎悪を抱え込んだまま、独り立ちに足るだけの力をつけてしまった。
「儂らが教えてやれる時はすでに過ぎた。彼はより厳しい状況の中で、狩人の本分を見出さねばならぬ」
「ピリカレラという少女の兄も、ナルガクルガとの戦いで死んだそうですが」
「彼女はルーヴェンとは違う。チュプの民の生まれじゃ」
寒い地方に住む少数民族・チュプ族。ナライも彼らのことは知っていた。ハンターギルド創立より前から竜を狩り、その素材を利用してきた狩猟民族である。彼らの教義では竜や獣を精霊の化身と考え、狩りは精霊に己の力を認めさせるための行為として捉えている。精霊に認められれば、その肉や毛皮、鱗や牙を恵みとして得られるのだ。それ故に彼らにとってはモンスターを狩るのは名誉なことであり、狩りでの死もそれに次ぐ名誉とされている。
故にピリカレラが迅竜を追うのは、憎悪からではない。
「彼女と共に恐怖と向き合えば……あの若者も憎しみを超え、迅竜に打ち勝てるかもしれん」
「それができなければ?」
ナライの言葉に、校長は彼を見上げた。厳しさの籠った、小さな瞳で。
「儂らは若者を導くのが仕事じゃ。しかし、彼らを弱肉強食の掟から解き放つことはできん」
真に強い者が生き残る。
それが百年以上若者たちを見守ってきた、老いた竜人の答えだった。
……テントの中で、ルーヴェンは不快な覚醒を味わった。目をしばたたかせ、そこがどこであるのか、自分がどうなったのかを知ろうとする。今寝かされているのは自分たちが設営したベースキャンプのテントであると分かるまで、少しの時間を要した。
防具は体から外され、簡素なベッドの傍らに置かれていた。凄まじい衝撃による凹みが見られる。愛刀もすぐ側に立てかけられていた。インナー姿で寝かされている彼の腹部と腕には包帯が巻かれ、微かに痛みを感じる。漂ってくる独特な薬品の臭いは以前に一回だけ嗅いだことのあるものだ。アイルーの救助隊のみが使える、獣人族秘伝の薬だった。
状況を把握し、嘆息する。彼はナルガクルガの一撃を
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