中編
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レ飾りに引っかかったのだ。
「……!」
死。恐怖が脳裏にわき起こる。
両腕で顔を庇った途端、全身に強烈な衝撃と痛みを感じた。背中が地面にめり込んだ。
頭が、体が急激に重くなり、意識が次第に薄れ行く。それでもルーヴェンは立ち上がろうとした。だが迅竜の牙が、捕食者の目が、完全に迫っていた。
父の最後が頭をよぎる。緑色がかった獣竜種……背中に備えた槍で父を貫き、そこから撒き散らした酸で村を地獄に変えた、いくら憎んでも憎みきれない仇。憎悪がルーヴェンの力だった。その力が、この狡猾な竜には通用しない。
――こんな所で……!
ナルガクルガが牙を剥いた刹那、横から飛来した何かが竜の鼻面に直撃した。破裂したその球体からは茶色い煙が広がり、迅竜は大きく仰け反る。悪臭が漂った。アカデミーの農場で何度も嗅いだ臭いだ。
ナルガクルガは短く叫び声を上げたかと思うと、すっとルーヴェンの視界から消える。その瞬間、彼の体からふっと力が抜けた。
……意識が闇に落ちて行く中で、ピリカレラが叫んでいるのが聞こえた。
「ルーヴェン訓練生は今頃、ナルガクルガと出会っているかの」
ハンターアカデミーの資料室で、校長は呟いた。アカデミーに保管されている資料は書物だけではない。教官や訓練生が持ち帰ったモンスターの体の一部や剥製、遺跡から発掘された古代の狩猟器具なども数多く展示されており、一種の博物館の様相を呈していた。
最も目を引くのは中央に置かれた、リオレウスとリオレイアの剥製だろう。職人の手によってハンターがつけた傷を修繕され、生きていたころそのままの姿で並んで展示されている。翼や頭部のみならともかく、飛竜を丸ごと剥製にして展示している施設はほとんどないだろう。
無論、これは単なる飾りとして作られたものではない。剥製の周囲には火竜の生態や、狩る際の狙い所について記した説明書きが置かれていた。そして初めてこの資料室を訪れたハンター候補生たちの内、ある者はその威容に後ずさり、またある者は美しさに取り憑かれてその場から動けなくなる。そうやって自分たちがどのような世界へ身を投じて行くのか、自覚するのである。
だが校長とその背後にいる教官・ナライが見つめていた展示物は、それと比べれば遥かに地味で目立たないものだった。大きな瓶の中で薬液に漬けて保存されている、棘状の物体。人の背丈の半分ほどあるそれはモンスターの体の一部だった。滅びたルーヴェンの村から回収されたサンプルで、持ち帰ったのはナライだ。説明文には『未知の獣竜種の体の一部。音に共鳴する性質がある』とのみ記されている。
「今回の試練、私の弟子には荷が重いのでは」
「彼の能力は
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