中編
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、飛竜にとっては軽傷である。だが額を撃たれたナルガクルガは僅かにバランスを崩した。尻尾による薙ぎ払いの軌道が逸れ、ルーヴェンは辛くも体勢を立て直し、ナルガクルガの間合いから脱出した。
弾弓の一撃は大した傷ではなくとも、迅竜としては相当不快だったようだ。首をもたげると、漆黒の嘴を大きく開いた。
――ギャオオオォォォゥ!――
耳を劈く咆哮に、空気がビリビリと震える。残っていたジャギィたちが一斉に逃げ散った。思わず耳を塞ぎつつもルーヴェンは、冷静になるべく師の言葉を思い出した。最初に猟場へ行ったときに教え込まれた、狩りの基本を。
『気圧されるな。戦うときはモンスターの目を見ろ。目を合わせられない相手には勝てない』
ルーヴェンは愛刀を構えつつ、息を吐いて心を落ち着ける。そして真っ直ぐに、ナルガクルガの目を見据えた。黄色い目は刺すようにルーヴェンたちを睨み、見ている全てを獲物と捉えているかのようだ。その眼光が目に見えない力を生み、ルーヴェンたちを押しつぶそうとしている。
だが若き狩人たちはの視線は、それに抗った。
「尻尾を斬り落とす! 援護してくれ!」
そう言って、ルーヴェンは鉄刀【神楽】を八相に構えて駆け出す。
「分かった!」
ピリカレラも鹿角ノ弾弓に新たな弾丸を番える。弓には麻痺薬の入った瓶が取りつけられていた。ハンターの使う弓にはこのような薬瓶を装着する機構が備わっている。発射される矢に自動的に薬品が塗付され、効果を発揮するのだ。
ナルガクルガはピリカレラに注意を向け、ぐっと左前足を下げた。ナルガクルガが獲物に襲いかかるとき、進む方向と反対の前足が下がる……その習性をピリカレラは知っていた。
咄嗟に、向かって右側へ身をかわす。その直後、彼女のいた場所を刃翼の一撃が通り過ぎた。その刃には丁字乱れに似た刃紋が浮き上がり木漏れ日を乱反射させ煌めいていた。モンスター同士の抗争、そして狩人との戦いを経て何度も刃こぼれし、そして再生を繰り返す過程でこのような模様ができたのだろう。どんな名刀にも勝る恐るべき凶器だ。
ピリカレラの兄もまた、この刃にかかって散った。
「そこ!」
回避の直後、彼女は弾弓を放つ。見事翼に命中し、麻痺毒の塗られた棘が竜の皮膚に食い込んだ。しかし少量の毒では効果はない。
すかさず次の弾を手にするピリカレラとは反対の方向へ、ルーヴェンが回り込んだ。モンスターと相対したときは決して直線的に動かず、弧を描いて動くようにとアカデミーで教わった。そして相手の動きを見極めつつ間合いを詰める。
ナルガクルガはピリカレラの方に注意を向けていた。飛び道具を持つ人間を警戒しているのだ。その隙に、ルーヴェンはその長い尾を狙う。飛竜を相手にするときは尾を切り落と
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