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戦国異伝
第二百八話 小田原開城その二

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「だからな」
「それでは」
「これよりですな」
「宴を開き」
「飲み、そして食うのですな」
「我等は」
「わしもじゃ、馳走を出すのじゃ」
 見れば氏康は微笑んでさえいた、そのうえでの言葉であった。
「飲んで食うぞ」
「そして明日」
「その文を受け取られますか」
「そうする」
 氏康は静かに言ってだ、そのうえで。
 彼はその夜家臣達にも兵達にも酒と馳走を出したらふく飲み食いさせた、氏康もその中で飲みそして食った。
 その氏康にだ、幻庵がまた問うた。
「あの、殿」
「叔父上、どうされた」
「まさか殿は明日」
「いや、腹を切ることはない」
「ですな」
 幻庵もわかっていて問うたのだ、それは確認のものだったのだ。
「それは」
「おそらく織田はな」
「殿に腹を切れとは言わず」
「降りじゃ」
「そして、ですか」
「皆と共にな」
 家臣達も見回しての言葉だった。
「織田に入れと言って来るな」
「では」
「これまでと同じじゃな」
「武田、上杉と」
「そしてじゃ」
「殿もですな」
「乗るつもりじゃ」
 信長から送られてくるその文に書かれていることにというのだ。
「ここはな」
「そうされますか」
「負けたわ」
 氏康は笑ってそのことを認めたのだった。
「完敗じゃ」
「織田信長に」
「考えてみればじゃ」
 ここでこうも言う氏康だった。
「わしは関東を見ておったな」
「はい」
「関東に覇を唱えるつもりじゃった」
「しかし織田信長は、ですか」
「天下じゃ」
「関東も入れた」
「その天下を見ておる」
 それは今もというのだ。
「そしてその天下の覇権をな」
「手に入れる為にこの関東まで来た」
「あの者にとって関東は全てではない」
「その天下の一部ですな」
「そうじゃ、若しかすると天下よりも大きいかも知れぬ」
 信長のその器はというのだ。
「わしは関東だけだったというのにな」
「だからですか」
「そうじゃ、わしが敵う相手ではなかったのじゃ」
「それ故に」
「負けた、そしてじゃ」
「そのことを認められてですか」
「降る」
 そうするとだ、氏康はまたはっきりと言った。
「そうするぞ」
「織田からの文が来れば」
「それはすぐに来る」
 このことも確信しているのだった。
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