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ブラッシュマン
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第一章

                   ブラッシュマン
 アメリカ原住民の間に伝わる古い話である。彼等は必ずこの話を聞いて成長するという。
 ブラッシュマンという精霊がいる。お節介ばかり働きあまり人々から好かれてはいない。むしろ嫌われている。その彼がある時野原で一人くつろいでいた時だ。不意に彼の前にある部族が横切った。見れば彼が今いる場所の近くにいる部族の一つであった。
 その中に一人可愛らしい娘がいた。小柄で色は白く目が黒く星の様に美しかった。その娘を見て彼はまたおせっかいを焼くことになった。
「あっ」
 彼女が不意に持っていた箱を落としてしまったのだ。
「しまったわ、こんなところで」
「おい、早く拾え」
 彼女の隣にいたおそらく父親と思われる初老の男が咎める顔で彼女に言ってきた。
「皆急いでいるんだぞ」
「え、ええ」
「それで何を落としたんだ?」
「針箱よ」
 申し訳なさそうに父親に告げる。
「それ落としたのよ」
「また厄介なのを落としたな」
 父親はそれを聞いて余計にうんざりとした顔を見せた。
「まあいい。とにかく拾え」
「うん」
 何はともあれその針箱を拾うことになった。それを見たブラッシュマンは。早速そのお節介を働くことになってしまったのであった。
「あの娘困ってるな」
 これははっきりとわかった。
「あんな顔をして箱を拾って」
 素直に可哀想だと思う。ここまではよかった。だがここからが。問題なのだった。
「よしっ」
 何を思ったかいきなり嵐を起こしたのだ。しかも大嵐だ。突然出て来た嵐で人々は大混乱に陥ってしまった。
「な、何だ急に!」
「この嵐は何だ!」
 誰もが驚いて声をあげる。
「何とか逃げろ!」
「離れるな!」
 声が錯綜する。最早混乱は明らかだった。
「子供の手を握れ!」
「荷物を守れ!」
 誰もが必死に子供や荷物を守ろうとする。そんな中ブラッシュマンは一人部族の方に歩いていった。外見は人間と同じ、しかも若くて逞しい男だったので誰も不思議には思わなかった。何よりも嵐に気を取られてそれどころではなかったのである。それが彼にとっては幸運であった。
 そしてその彼は娘のところに来た。娘は嵐の中必死に針箱を持って家族を探していた。
「お父さん、お母さん」
 両親を呼ぶ。箱は両手で大事に持っている。
「何処なの?何処にいるの?」
「皆大丈夫だよ」
 その彼女に声をかける者がいた。
「死んだりしないから大丈夫だよ」
「大丈夫って」
「君、困ってるよね」
 娘が何が何だかわからないうちにまた彼女に声をかけてきた。
「今凄く」
「確かに困ってるけれど」
「針箱を落として」
 このこともまた彼女に言う。
「だからさ。ここは逃げよう」
「逃げる!
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