4部分:第四章
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だがそれさえもスレイマーンにとっては咎める対象になった。
「何を言っている」
彼は言う。
「人が一人いなくなっているのだぞ」
「それはわかっていますけど」
ジンナはてっきりマムーが女遊びにうつつを抜かしているのだろうと思っていたのだ。バグダートの様な街では退廃の中に身を沈める者も多いのだ。
「まさかねえ」
「とにかく行け」
今度は急かした。
「そんなことを言っている間に来たみただぞ。ではな」
スレイマーンはマムーの店の者達と共に身を隠した。そして道に出ているのはジンナだけとなってしまったのであった。
「ちぇっ、旦那様も最後まで言ってくれればいいのに」
何故一回だけしか斬ってはいけないのか、それがまず気になった。だがあれこれ考えている間に女が彼の側にまでやって来ていた。
見れば本当に美しい女であった。華奢な身体が余計に妖しい色気を振りまいていた。まるで夜に咲く紅の花のように。黒い髪と目が妖艶な輝きを闇夜の中に見せていた。白い肌が月明かりの中に輝いている。一目で心を奪われるような女であった。
「もし」
その女が笛の音に似た美しい声でジンナに語り掛けてきた。
「はい」
ジンナはそれに応えた。スレイマーンの店では堅物として知られている彼もその声にすっかり参りそうになってしまっていた。だが何とか踏み止まっていた。
「今はお一人でしょうか」
「そうならばどうされるのですか?」
「よければご一緒しませんか」
ジンナの目を流し目で見てきて問うてきた。
「一晩」
「一晩ですか」
「ええ」
女は答えた。
「お安くしておきますよ」
その言葉から女が娼婦であるとわかる。だがそんなことは大した違いではなかった。
「わかりました」
主に言われたからであるがこれは心からの言葉でもあった。
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