第74話 後ろには気をつけよう
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丸を結界を用いて跳ね返したあの光景。
もしかしたら、あれを使えば―――
***
煙を巻き上げている軍艦を前にして、岡田は舌なめずりをしていた。自分の体と一体化した紅桜、そして桜月の欠片が歓喜しているのが感じ取れる。
人を斬った感触を受けて、人の血しぶきをその刀身に受けて、人の肉をその刃で切り裂いて、刀は喜びに満ちていた。久方ぶりの人間の血だ! 肉だ! 魂だ! 命だ!
刀が人を切り裂く度に、刀が軍艦を破壊する度に、体全身に力が湧き上がる感覚を覚える。
その感覚が岡田には快感であった。人を斬る度に岡田の顔がにやける。人を殺める度に岡田の見えなくなった筈の両の目が輝く。人の命の輝きを消す度に岡田の命の輝きがより強くなる。
そして、その度に岡田は痛感する。自分はやはり人殺しなのだと。
だが、今更後悔などしない。自分で選んだ道なのだ。今更何を迷うことがあろうか。何より、これ以外の道を選ぶことなど今更出来る筈がない。どうせ行き先は地獄の一丁目と決まっているのだ。ならば地獄に行くまでの間にしこたま斬って斬って斬りまくるのみ。
声が聞こえてきた。だが、断末魔の悲鳴ではない。寧ろ怒りの篭った雄叫びであった。声のした方へ頭を向けてみる。
その突如であった。岡田の体に何かがぶつかってきたのだ。完全に油断し切っていた岡田は対応が遅れてしまい諸にそれを受けてしまう形となってしまった。
だが、幸いにもそれは弾丸や砲弾の類ではなかった。何故なら、ぶつかってきたのは人間、それも小さな子供であったのだ。
「な、何だ一体!?」
余りにも唐突の出来事に流石の岡田も動揺を隠せなかった。本来ならこれ位避ける事など雑作もない筈。だが、紅桜に体を侵食されてしまった際の高揚感と敵攘夷志士達を切り続けていた際の精神的充実感に加え、飛んできたのが子供と言う殺傷性の低さから対応が後手に回ってしまい、この様な結果を招く事になってしまったのだ。
驚く岡田を他所に、ぶつかってきた子供は怒りを体全体で表すかの如く岡田の胸倉を両手で掴んで何度も揺さ振っていた。
「お前! お前お前お前お前! お前はぁぁぁぁぁ!!!」
「ちっ、うざったいガキには用はないんだがなぁ」
「あんたに用はなくてもこっちにはあるの! つべこべ言わずにぃぃ―――」
言葉の途中で子供は大きく仰け反り、息を吸い込んだ。一瞬間を置き、溜め込んだ息と一緒に言葉を吐き出す。
「私のリボン返せぇぇぇっ!!!」
「なっ、お前さんあの時の―――」
この時、岡田は子供の正体を改めて理解した。そう、岡田に猛烈な勢いで飛び掛り、胸倉を掴んで怒りをぶつけていたのは、他でもない昨晩岡田が斬り捨て、無残にも髪を毟り取られたなのは本人であったのだ。
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