主節・禍風と剛力
初節・迷宮の天井(あまい)に流星走る
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早いか遅いかが違う―――」
「お?」
そこで唐突に言葉が途切れた事を不審に思った男が、壁にもたれ掛かるのを止めて数歩歩くと、ふらりと体を揺らして糸の切れた人形のように、少女はくずれて倒れ込んだ。
少女が暗くなる視界の中、最後に思った事柄は、
(仮想世界で、気を失うなんて……一体どんな仕組みなんだろう……)
至極如何でもいいであろう些事と、
(此処で、私は死ぬんだろう……な)
諦観が占めた文句だった。
倒れる、倒れて行く感覚の中、少女は何度もある文章を、頭の中で反復していた。
これはゲームであるが故に『総重量』が決められており、アイテムや装備にその場限りのオブジェクトからアバターまで、そこまでの重量を超えると持てなかったり動きが鈍くなったりする、正しくゲームだからこその制限が設けられている。
なので超が付く程アイテムに無頓着なプレイヤーでもなければ、倒れ込んだ者を支える事こそ出来れど、持ち上げて安全な場所まで運ぶ事など、現時点では絶対に出来ない。
何より自らの命を危険にさらしてまで、見ず知らずの他人の命を助ける筈など―――
(……?)
―――とそこまで思考が進んでから、やっとこさ少女は自分に起きている異変に気が付いた。
(……生きてる……? それに此処は、迷宮区の外……?)
今彼女が寝ているのは砂交じりの冷風が撫でる、迷堅い石造りの床の上では無く、穏やかで温かな風の撫でる、森林の柔らかい地面の上。
明らかに迷宮区の外だ。
今居るのはイバラと大樹に囲まれた空き地らしく、夕時近くの少々強い日差しが木々を照らし、苔がそれらを反射していた。
少女は上半身だけ起こして目を閉じる。
何故迷宮区で倒れた筈の自分が、何時の間にやらそこから離れたにフィールドに居るのか、考え―――――そして、一つの答えに辿り着く。
その答えの主を探すべくゆっくりと顔を動かせば……そのお目当ての人物は、気を失う前と同様、ブルーベリー色のストーローにも似たパイプを咥えたまま、木の根に腰掛けていた。
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