主節・禍風と剛力
初節・迷宮の天井(あまい)に流星走る
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最後に流れ星を見たのは何時だったか……男は不意にそんな事を考えた。
満点の星空の下、肌寒い風の吹きぬける荒野で見たのが最後だっただろうか。草原の上で嫁ぎ先へ行く妹と、思い出にと見たのが最後だっただろうか。
それとも、槍を振るうその最中、ちらと視線を向けた先に偶然移ったモノが最後だっただろうか―――と。
無論ながら男は突拍子も何も無く、そんな記憶を思い起こしたのではない。薄暗い迷宮の中、その闇を切り裂かんばかりに迸る剣閃、それを目にうつした為だ。
そして、その流星の主が何処となく危うげであると見抜き、彼は足音を僅かにも立てず、しかしそれなりの速度で歩いて行った。
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突撃兵の銘を持つ亜人モンスター、『ルインコボルド・トルーパー』の片手斧を目の前に、少女は手にしたレイピアをしっかりと握ると脚を軽く曲げる。
一度、二度、三度槌の如く来る振り降ろしを、紙一重な間合いでのステップ回避でやり過ごす。
少女はこの三連撃後、モンスターの体勢が大きく崩れる事を知っていたか、レイピアを軽く引き白い光源を刀身に生みだす。
「ふぅ……ハアッ!」
軽く捻られたと思った……刹那、凄まじいスピードで突きが放たれた。それは奇跡のみしか目に残らぬ、正しく神速を誇る一撃。
「ギュオオゴッ!?」
この単発突きの名は、細剣スキルカテゴリの中でも初期に位置する技《リニアー》。
ソードアート・オンラインと呼ばれるゲームの中で、ソードスキルという重要なシステム―――無限に存在する “剣” 技の内一つ。
ゲーム……それ即ち、一見ファンタジー世界のように見えるこの迷宮は、実は全てデータの塊。目の前の犬頭の獣人・コボルドはモンスター “mod” 、レイピア携える彼女自身も本物の肉を持たない所謂 “アバター” なのだ。
バーチャル・リアリティ・ゲーム―――ゲームの中に入り込み、自身が体を動かす事でキャラクターを操作するこのゲームは、『ナーヴギア』というそれを実現するハードの発売後、瞬く間に普及。
一気に全てのゲームハードの頂点へと躍り出た。
しかしながら、体を動かすといってもそれまで発売されていたソフトでもたった数十mぐらいで、何処か狭っ苦しく感じてもいた仕方ない状態を作り出す、そんな物ばかりだった。
もっと自由に動きたい、現実ではできない事をしたい。
ゲーマーが、学生が、VR世界に魅せられた者達が待ち望んでいたソフト。
それが……この、ソードアート・オンライン。
通称・SAOと呼ばれるそれは、自らが体を動かし、剣士としてレベルを上げて行く、MMORPG。
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