第145話 電光石火
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剣を携え、正宗の直ぐ横を歩く兵は自らの武器とは別に長弓を持っていた。その長弓は正宗のものだ。泉は武人らしく動きやすさと上品さを両立した服装で普段来ている服より上等な服を着ていた。
現在、日を真上から少し降りていた。通りには人が雑多し賑やかな往来を形成していた。
「正宗様、もう少し先を左折し真っ直ぐいけば店に着きます」
「ここまで何もないな」
正宗と泉がたわいも無い会話をしていると通りの向こうで此方を凝視して口を動かす女がいた。泉がその者に視線を向けると何も言わずに去っていった。正宗は奇妙な行動をとった女を訝しんでいると泉が少し遅れて声を掛けてきた。
「黄漢升は宛城に滞在し、早朝城門を出入りしたとのことです。既に宛城内に戻っています。暗兵達は一人娘の所在を探索するとのことです」
泉は正宗以外には聞こえないような小さな声で呟いてきた。正宗は泉の話を黙ってきいていた。
「黄漢升の所在は特定したとのことだな」
「はい。正宗様の読み通りかと。後は一人娘の居場所を特定すれば。質に取られているか結論づけられるかと」
泉は視線を変えず小さい声で正宗に呟いた。
「ところで先程の者は七乃の手の者か?」
正宗も視線を変えず小さい声で泉に呟いた。
「はい。あの者が口を動かしていたのは口の動きで私に報告をするためです」
「読唇術か?」
「はい。ただ口の動きが喋り言葉ではなく暗号化されているため、暗兵だけが内々で共有している暗号表がないと意味はわからないらしいです。私は事前に簡単な答えを幾通りか教えてもらっていたのでわかりました」
泉は周囲を気にしながら正宗にか細い声で説明した。その話を正宗は感心したように頷いていた。この時のことを切欠に七乃の考案を正宗は自分の諜報部隊に採用することになる。
正宗達は暗殺者の襲撃を受けることなく店に到着した。流石に人目につく日中の大通りで襲撃するような目立つ行為は避けたのだろう。しかし、黄忠が暗殺者であると分かった以上、再度襲撃を試みる可能性があった。正宗は店に来るまでの道のりで周囲を眺め弓で自分を狙うのに最適そうな家屋がないか見ていた。その甲斐もあり正宗は目ぼしい家屋に辺りをつけていた。
「これは。これは。清河王様、当店をご利用いただき感謝の極みにございます」
正宗が店に到着する前から店の主だった店員が店の前で正宗が来るのを待っていた。今、正宗に頭を下げているのは店の店主である。店主は肥満気味な人の良さそうな中年の男だった。正宗は店の作りを見渡す。正宗が働いている海陵酒家と違い贅を凝らした造りだった。誰の目から見ても一級の高級酒家であることは間違いなかった。正宗は泉に視線を向けた。泉は正宗が視線を向けると「ご満足いただけましたでしょうか?」
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