第145話 電光石火
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暗殺を免れた正宗は宛城の美羽の邸宅に戻ると体の汚れを洗い落とすために水浴びしに邸内の井戸に向かった。正宗が水浴びをしていると泉が現れ、節目がちに拱手し膝をついた。正宗の泉の間には竹製の衝立が立っている。それには侍女が用意した正宗の着替えと手拭いがかかっていた。正宗は泉の気配を感じたのか衝立の方に視線を向けた。
「泉か」
「はい。正宗様、お出迎えできず申し訳ございませんでした」
泉は衝立腰に正宗に対して申し訳なさそうに謝罪した。泉は午後からの昼餉をとる店の手配で外出していた。
「気にするな。店の手配は問題なかったか?」
「問題ございませんでした。店の店主は正宗が来店することを末代までの光栄と申しておりました」
「泉、無理強いはしていないだろうな」
「いいえ、客の予約状況を確認した上で話を持込ましたので無理強いの心配はございません」
「そうか。ならよい」
正宗は一瞬沈黙した。泉は正宗が沈黙したことを変に思ったのか伏していた目を衝立に向けた。
「正宗様?」
「泉、燕璃との手合わせ後に大変な目にあった」
正宗は徐ろに口を開くと、衝立にかけられた手ぬぐいを取り体を拭くとそそくさと着替えをはじめた。
「燕璃がまた正宗様に何か粗相迷をしたのでしょうか?」
「違う。暗殺者に襲撃された。今回は私が標的の様だ」
衝立越しの正宗の声は淡々としていた。命を狙われたことに不安を覚えている様子は全く感じられなかった。
「な!?」
正宗とは対照的に泉は驚愕しているようだった。彼女は狼狽えた様子で片膝をつく姿勢を崩し立ち上がった。
美羽襲撃から一ヶ月経過している。あの襲撃から大して間を置かずに正宗に襲撃を仕掛ければ疑いは否が応でもなく蔡瑁に向く。泉は蔡瑁のあまりの愚行に呆れと怒りがないまぜになった表情をしていた。
「安心しろ。燕璃のお陰で無事に撃退できた」
正宗はそれとなく燕璃を擁護した。泉の燕璃への感情を少しでも解きほぐそうという彼の気遣いだろう。
「そうですか。本当にご無事でよかったです」
泉は安堵のため息をつきながら、姿勢を元に戻した。
「正宗様、お怪我はありませんでしたでしょうか? 傷があるのであれば直ぐにでも治療を」
泉は心配そうに衝立の向こうにいる正宗に言った。
「怪我はない。私の力は知っているだろう」
「正宗様、過信は禁物にございます。いついかなる時に虚を突かれるかわかりません」
泉は正宗の武人としての力量を知りながらも真剣な表情で正宗を諌めた。彼女は日頃正宗に苦言を言うことは殆ど無い。その彼女が敢えていうことのは正宗の身を本当に案じているのだろう。
「そうだな。心得ておこう」
正宗は泉の言葉を噛みしめるように答えた
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