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ONE PIECE《エピソードオブ・アンカー》
episode10
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待った! 10年も我慢したんだ! お前みたいな特別な存在は、人間に売り飛ばしてやる。最初で最期の親孝行だァ!!」


 イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだいやだいやだいやだいやだ......あああああぁぁぁッ!!!!








 目を覚ましたアンカーの目に映り込んだのは、大きな男の掌。それが、自我のコントロールを壊す引鉄となった。


「わあああああぁぁぁッ!!!!」

「っ! ア、アンカー!?」

「く、来るな! 来るな来るなぁ! ワタシに触るな! 構うな!」


 大きな掌を払い除け、部屋の隅に逃げ込む。もうそれ以上、下がれはしないのに、まだ体を壁の方へ押し付けていた。

 騒ぎを聞き付け、乗組員のほとんどがアンカーの部屋の前に集まる。それが、更なる悪化の原因となった。
 今の彼女には、目の前の男たち全てが育ての親にしか見えていない。常識的に分かっていても脳がそう認識してしまい、幻覚となって彼女を襲う。


「アラディン! これは何の騒ぎだ!?」

「船長...。コアラから、アンカーの具合いが悪そうだと聞いたんで様子を見に来たんだが...」

「それが何故、こうなっている!?」

「それは分からない......」


 2人のこの会話も、歪んで聞こえている。
 心配する表情さえ歪んで、嘲り笑う表情や、邪な想いが滲み出た表情に見えてくる。

 アンカーの口からは、もうずっと「ごめんなさい」と繰り返されていた。

 部屋の隅で膝を抱えてしゃがみ込み、頭を細い腕で抑え付けながら、僅かな隙間から見える男たちの様子を伺っている。
 男たちの誰かが体を大きく動かす度に、小さく悲鳴を上げて体を震わせた。


「アンカー、落ち着け。俺たちはお前に何もしない」

「ごめんなさい...」

「大丈夫だ。俺たちは仲間だろう?」

「ごめんなさい、ごめんなさい...」


 その必死な態度に、皆が感じた。
 初めて会った頃のコアラに似ている...と。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
こんな姿で生まれてごめんなさい。変な言葉を使ってごめんなさい。醜くてごめんなさい。近寄ってごめんなさい。殴られて泣いてごめんなさい。笑ってごめんなさい。ご飯作ってごめんなさい。床に落ちたご飯を残してごめんなさい...。特別で...カイブツでごめんなさい。ご......」


 遂に、アンカーは泣き出してしまった。
 子供のように大声を上げて、顔をぐしゃぐしゃにして、何度も「助けて、助けて」と叫んだ。

 誰も手が付けられない。体が動かない。
 初めて見る仲間の一面に、誰もが釘付けになっていた。


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