五話:審判と運命
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泉には人が少なくなったら行ってみるさ」
「そうかい。じゃ、行くよ、フェイト」
「うん。行ってきます」
ヴィクトルは二人を見送った後、何をするもなしに窓から見える景色をボーっと眺める。温泉旅館とだけあって周りの景色自体も悪くはない。彼は景色を眺めながら妻が生きていればこういった場所にも共に来られていただろうと何となしに考える。妻と共に居られた時間は四年にも満たない。だが、彼にとっては何よりもかけがえのない思い出の日々だった。
彼の妻の名前はラル・メル・マータ。初めて会った時から惹かれ恋に落ちた女性。表では落ち着きのある大人の女性として見られていたが、その実、子供っぽい所があり料理の腕でヴィクトルに負けたと思った時などは一心不乱に料理の練習をするなど負けず嫌いな一面が見られた。そんな彼女に彼は心を癒されたからこそ今ここにこうして立っていられる。彼女がいなければとうの昔にヴィクトルという時計は止まっていたのだろうから。
「永遠に愛しているよ……ラル」
彼は例え時歪の因子化に侵されていなくとも、ラル以外の女性と添い遂げる気もなく、愛することもないだろう。例え、ラル自身が彼に再婚して幸せになってくれと頼んでいたとしても彼はラル以外を愛する気はないだろう。いや、彼女以外の女性を愛せはしない。
絶望の淵から救い上げてくれた恩人であり自分の全てを受け止めてくれた女性……言葉では言い表せない程の気持ちを彼は彼女に抱いている。ただ一つに、ただ一人に執着することが多いクルスニク一族の中でも彼は特にそれが顕著だった。それは、娘を守る為に他の者全てを犠牲にしたことからも分かるだろう。彼は妻に執着しているのだ。
何に代えても守り抜くと誓い―――その手で殺すことになった女性に。
「我ながら女々しい男だな……だが、それでいい。誰が何と言おうと私は君を愛し続ける」
ヴィクトルは胸の前で軽く手を握りながら呟き、追いつくことなど決して出来はしないのに、まるで落ちて行く夕日を追いかけている様な月を寂しげな目で見ていたのだった。
深い闇に飲まれ、昼間の陽気な雰囲気とは打って変わり不気味な雰囲気を醸し出す森にヴィクトル達は来ていた。ジュエルシードの反応を追って近づいたのはいいが、こうも木々がうっそうと茂っていては見つけるのに苦労するだろうとヴィクトルは思っていたが、ジュエルシード自身が青白い光を発していてくれたので発見は容易かった。小さな川に浸るジュエルシードを封印して早いうちに帰ろうと思っていたのだが、物事はそう簡単には進まない。
「二人共、こっちに近づいて来る魔力反応があるよ。多分、おちびちゃんだろうね。折角、昼間に警告したって言うのにさ」
犬歯を
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