番外『有り得ぬ世界』
交節・月光が求むのは鉄色の刃
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「おまっ!? おい寝るなっ!!」
「……ぬ……?」
有り得ていた。普通に寝ていた。
如何やら噂は尾鰭が付いたモノではなく、真っ当な事実だったらしい。
警戒していた端からこれでは気合いも入らず抜けてしまう。
(本当だったのは分かったが……噂が半信半疑っぽい理由が分かった。そりゃ有り得ないだろこんな奴……)
そもそもこんな戦場真っただ中で寝る理由は一体何なのか。
ただ寝たいなら宿屋なりプレイヤーホームなり、止むを得ないならせめて安全地帯で、シェルフでも使うなりすればいいだけの話。
こんな切り株の傍にもたれ掛かり、胡坐をかいて寝座る意味は何処にもない。
どうにかこうにか眼を覚ました男はジンを見やり、のっそりと緩慢な動作で起き上がった。
「……ああ、アレだアレ、お前は来客……とかいう奴か」
「まあ別に人の元に訪ねてくるのが《来客》って意味だから、あってる事はあってるが……」
この森の中で来客は無いよなぁ、と言うのがジンの本音である。
「まあ、そうか……それで俺になんの、用事だ?」
それを読んだのか口頭でそれっぽい返答をしながら、男は頭を掻きながら首を回す。
まだ寝ぼけているのだろうか……途切れ途切れに言葉を発する男へ、ジンは此処へ来た目的を忘れかけていた事に気が付き、頭を振って少しばかり気分を入れ替えてから口にした。
「お前、強いんだとな。噂だが確かに聞いたぞ」
「……強い、か……つまりは、アレか一戦交えたい、と?」
「そうだな、簡潔に言えばそうなる」
寝てばかりなれど理解が遅い訳ではなく、寧ろ話が早い方ではあったらしい。
此処に来るまではワクワクが心を閉めていたが、今ジンの心内では別の感情もわき出ている。……この男は一体何者なのか? と。
ステータス表示がバグだらけであった事は本人の所為なのか、それともナーヴギアやプロバイダの所為なのかは分からないが、警戒すべき人物だという事に変わりは無い。
だがアーガスの人間だという事は考えづらかった。
何故なら《千里眼》のスキルを考案したのは紛れもない彼らだろうし、それを会得したプレイヤーと万が一にもはち合わせる可能性を考えるのならば、極力他のプレイヤーと相違無いパラメータでアバターを作る筈だからだ。
……けれども、いやだからこそと言うべきか、尚更彼の正体が分からない。注意深く見逃さない様立ち回るのは、ある意味で当然取るべき策だといえよう。
目の前の男は特に疑問に思う事は無く、腰に付いた鞘から短剣を抜く。
他攻略組やジンの得物とはかなり違い、『黒の剣士』キリトの所持している片手直剣《エリュシデータ》ですらまだ造型に特徴があったとい
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