名を忘れた国家
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
口をつけて芳醇な香りを楽しんで喉を潤すと、現実に戻ったキャゼルヌ中将が最初に口を開いた。
「この話、情報部だけで終わる話じゃないな。
政治が絡んでくるから、先生が必要になってくる」
政治家が絡むとこの手の工作はろくな事にはならないが、絡まなかった場合も大体ろくな事にならない。
ならば、政治家を絡ませて首切り要因にしてしまえという組織防衛術の観点からの発言である。
「絡めるんですか?」
「お前さんがいやがるのは承知の上さ」
大衆の代弁者たる政治家先生は、人間の美しく素晴らしい善の部分しか見ない傾向がある。
誰しも持っている心の闇や悪の部分を絶対見ず、自分にそんな負の感情があるとは思いたくない。
自分のやっている事を善だと固く信じているから、最も他人に対して残酷になれる。
だからこそ、ヤンは政治家を嫌悪しているのだが、彼らはこの国の大衆の鏡であるという一点においてこの国を導いているのだ。
そんな彼らが自分の正義を完全に確信し、疑問を完璧に無くした大義の終焉、
「自由惑星同盟は、銀河帝国から独立する」
というあまりに大きな一石は軍人が勝手に事を成すには大きすぎる。
忘れていた名のない化け物を見つけてしまった代償はあまりにも大きい。
「藪をつついたら蛇が出てきた気分だよ」
「それを生で見た私の身になってくださいよ」
キャゼルヌ中将の皮肉にヤンが乾いた笑い声の後で返事を返す。
彼らは無能ではない。怠け者ではあるのだろうが。
だからこそ、話はいやでも進んでゆく。
「で、後方勤務本部はこの話乗るんですか?」
「乗るさ。
ド・ヴィリエ氏の言葉じゃないが、現状のフェザーン支援はあまりにも非効率だ。
政治的なうんぬんはひとまず置くとして、ルビンスキー自治領主の失脚は既定路線になっている。
俺は統合作戦本部で暇を堪能しているお前を使って、状況をコントロールするつもりなんだからな」
「つまり、私にクーデターを起こすだろうワレンコフ氏の実戦力になれと?」
「……」
ヤンの質問にキャゼルヌ中将は沈黙で答える。
皮肉以外の何物でもないだろう。
民主主義を愛し非合法手段と暴力を嫌っているヤンに、他国とはいえ非合法暴力そのものであるクーデターの実戦力として傭兵艦隊を率いろと敬愛する先輩から言われているのだから。
「歴史は繰り返す。
一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。
何度目ですか。
この愚行は」
「渋い言葉を持ち出すな。
誰だったかな?
その言葉を言ったやつ」
「カール・マルクスです。
かと言って、一生やらせておくわけにもいかないでしょうに」
普通割り込まないキャゼルヌ中将付きの緑髪の副
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ