Episode37:一と九十九と紫と
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訳無さは、消えることはない。
でもだからこそ、倒してきた彼らの為にも、勝負から逃げる訳にはいかないと思った。
☆★☆★
将輝と別れて少しして、隼人は軽い自己嫌悪により人目の付かない場所で座り込んでいた。
一条将輝という男の性格を考慮すれば、これ以上被害を増やさないように棄権しようとする彼の行動は予想できた。
その為に、先回りする形で彼を焚きつける事で紫道と戦えないという最悪の事態は回避できた。
しかし、本当にこれで良かったのだろうかと思ってしまう。
彼を焚きつけた理由は全て隼人の私情によるものだ。
幹比古のこと然り、気に入らなかった然り、エリナ然り。
「……ごめん、将輝」
しかし、悔やんで止まっている時間はない。もうすぐに次の試合が始まる。まずここに勝たなければ、全てが水の泡となる。
順当に行けば勝てる確率は高い。自分にできるのは、その勝率を覆す狂いを消し去ること。
「…さて、時間だ」
準決勝の第九高校との試合は、渓谷ステージで行われた。
くの字形に湾曲した人工の湖、というよりは水溜まりが特徴のステージだ。
この試合は、幹比古の独壇場だった。
一高選手には薄く、九高選手には濃く纏わりつく霧。幹比古によって発生させられた『結界』の古式魔法は、飽和水蒸気に関係なく空気中の水蒸気を凝結させる魔法であり、気温を上げても供給される水蒸気が増えて霧を濃くするだけの結果になる。
また、『結界』の魔法は『閉鎖』の概念を含むから、気流を起こしても霧に満たされた空気が循環する結果にしかならない。
元々、対象物を明確に指定しなければならない現代魔法は、曖昧な対象に継続的な作用を及ぼし続けることは苦手だ。
故に、現代魔法でこの「霧の魔法」を打ち消すためには、幹比古の魔法作用エリア、つまり『結界』を認識しない限り有効な措置は取れないのだが、九高の新人は古式魔法について勉強不足だったようだ。
この霧は分布が幹比古により操られている点を除けば、自然現象以上の効果は無い。幻惑作用もなければ、衰弱効果もないし、閉じ込める効果もない。だが、前が見えないというだけで、人間の行動を制限するには十分だ。
恐る恐る進む九高オフェンスを尻目に、存在認識の視力を存分に利用した達也が音もなく駆け抜ける。
相手に気づかれることなく九高ディフェンダーの背後に回り、達也はモノリスに向けて『鍵』を撃ち込んだ。コードを隠していた蓋が剥がれ落ちた轟音にディフェンダーが慌てて振り返るが、もう遅い。既に達也は退避済みで、『霧の結界』は幹比古がコントロールしている精霊であるから、至る所に幹比古の眼が潜んでいるのと同じ。
一高対九高の試合は、一度も戦闘
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