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戦国異伝
第二百七話 甲斐姫その十一

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「おそらくこのままな」
「はい、織田方はですね」
「城を攻めぬ」
 それはないというのだ。
「このままな」
「それでは」
「うむ、後はな」
「戦が終われば」
「我等は降ることになりますね」
「織田信長はおそらくじゃが」
 ここからは成田の読みだった。
「北条家を潰すのではなく」
「織田家の中に取り込むことが」
「それが狙いじゃ」
 滅ぼすのではなく、というのだ。
「そちらじゃ」
「だからですね」
「無理して戦うこともない」
 主家が助かるのならというのだ。
「このままな、我等はな」
「落ち着いて」
「そのうえでじゃ」
 そうしてというのだ。
「我等はな」
「それでは」
「このまま」
「殿に申し訳が立たぬがな」
 石田はこのことを後悔しつつ積極的に攻めることを止めて囲むことにした、そのうえで戦の詳細を信長に文で送り戦が終わった後に処罰を受けることを願った、だが信長は小田原の陣でその文を見てこう言った。
「佐吉らしいわ」
「水攻めが失敗した責をですか」
「取りたいと書かれているのですな」
「そうじゃ」
 その通りだとだ、信長は幸村と兼続に答えた。
「そう願う文じゃ」
「して殿」
「どうされますか」
 二人はすぐに信長に問うた。
「その文の通りです」
「戦の後で佐吉殿を罰せられますか」
「その評定の時に」
「論功行賞の場において」
「甲斐姫のことは知っておった」
 これが信長がまず言ったことだった。
「だからな」
「それでは」
「佐吉殿は」
「あの姫はそうは勝てぬ」 
 そうした者だというのだ。
「だからな」
「それでは」
「佐吉殿は」
「不問じゃ」
 そうするというのだ。
「無論桂松と左近もな」
「お二人もですか」
「そうされますか」
「うむ」
 こう答えるのだった。
「確かに佐吉はわしが止めても攻めると言って実際に攻めた」
「そして失敗した」
「これはよくありませんな」
「腹を切らせたり追い出さぬまでも何らかの処罰が必要じゃった」
 石田のそれを失態とすると、というのだ。
「そうなっておった、しかしじゃ」
「それでもですか」
「この度のことは」
「相手が相手じゃ」
 甲斐姫だからだというのだ。
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