第二百七話 甲斐姫その八
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「火薬を仕込んでな」
「堤を一気に壊しますか」
「そうやも知れぬ」
こうも言うのだった。
「若しやな」
「では」
「兵を少し割いてじゃ」
そのうえでというのだ。
「堤の物見に当たらせよ」
「わかり申した」
「ではすぐに」
「甲斐姫は強い」
大谷はこのことを見抜いて言うのだった。
「それもかなりな」
「それ故にですな」
「何をしてくるかわかりませぬな」
「そうじゃ、だからじゃ」
それでというのだ。
「わしも自らな」
「堤をですか」
「物見されますか」
「うむ、采配は佐吉と左近に任せるか」
甲斐姫を警戒しているが故の言葉だった。
「ここは」
「ではすぐ佐吉殿と左近殿に」
「このことを」
足軽達も応えてだ、大谷は自ら手勢を率いて堤自体の物見に当たろうとした。だがここでだった。
その堤が突如としてだった、雷の様な派手な音を立てて決壊した。さしもの大谷もそれを見て驚きの声をあげた。
「何っ、堤が!?」
「これは一体!」
「どういうことでありますか!」
「ま、まさか甲斐姫が」
「その通り!」
この言葉と共にだった、不意に。
その堤の上、大谷と兵達の前に影が現れた、その影は。
突如として影を脱ぎ捨てた、そしてそこには。
三日月を背負った女がいた、白い具足に陣羽織、服を身に着けその右手には薙刀がある。長い鉢巻とそれだけが黒い腰までの髪をなびかせている。
その女を見てだ、大谷はすぐに言った。
「甲斐姫か」
「如何にも」
甲斐姫は大谷にすぐに答えた。
「左様です」
「まさか、堤を」
「はい」
その通りだという返事だった。
「たった今壊させてもらいました」
「何故じゃ」
大谷は身構えつつ甲斐姫に問うた、その手にはもう槍がある。
「何時の間に堤まで来た」
「先程の服はマントです」
「南蛮のか」
「黒いそれを」
「夜の闇に紛れてか」
「そして顔はこれで」
言いつつだ、甲斐姫は懐から面頬を出した。今は着けていないがそれもまた黒く塗られているものだった。
「隠していたので」
「闇夜に紛れてか」
「ここまで。兵達より先に来て」
そしてというのだ。
「忍達を率い」
「そうしたか、やはり」
「そして堤に火薬を仕掛け」
「破壊したのじゃな」
「そうしました」
その言葉と共にだった、甲斐姫の周囲に。
忍達が出て来た、大谷はその忍達を見て言った。
「風魔じゃな」
「左様でござる」
「我等は風魔」
「この忍城に詰めておった者達」
「その我等が」
忍達はその手に刀や手裏剣を出しつつ大谷に応える。
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