第1部 沐雨篇
第2章 第4艦隊付幕僚補佐
008 イゼルローン回廊外遭遇戦
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司令部に士官が誰もいない事態を看過できない程度には勤勉であったのだ。あるいはヤンの言葉を借りるならば、給料分の仕事はしていたのである。
「およそ20分後に敵主砲有効射程内に入ります!」
「……近いな、警戒網はどうなってるんだ」
フロルは聞こえない声の大きさで毒付いた。するべき警戒を怠っていた証であった。
事態は急を要した。最も問題なのは、敵艦隊が我が艦隊の右側面を突く形になっていることであった。20分では3000隻の全艦隊の回頭しきるのは難しいであろう。ただ漠然と縦陣形を敷いていた艦隊の、陣形変更も簡単ではない。
さらに問題は、幕僚団が揃うまでの時間的ロスである。全員が揃ってから、作戦案を出し合って取りまとめる時間などない。仮に幕僚たちが有能であっても、そのために有する時間が同盟軍艦隊を宇宙の塵に追いやるであろう。この瞬間、時間は宝石よりも貴重であった。
フロルは小さく息を吐き出して、分艦隊司令室直通の電話を取った。数秒して、相手が出る。
「リシャール中尉であります」
『なんなんだ! 今の警報は!』
電話の先でパストーレは叫んでいた。狼狽が声にまで表れている。
「敵艦隊発見しました。20分で会敵します。至急司令室までお越し下さい」
『敵艦隊だと!?』
フロルは舌打ちを堪えなければなかった。警報の意味がわからなかったパストーレに対してではない。パストーレの意識の低さに対してであった。艦隊はハイネセンの周りを飛んでいるのではない。あくまで、敵艦隊の遭遇を想定した偵察任務であったはずである。それが幾多の何事もない偵察任務によって、敵が来ないことを想定した偵察任務になっていたのではないか。だからまともな警戒網も引かずに警戒宙域を航行していたのではないか。朝3時としても、司令室にフロルしかいないのも馬鹿げた話であった。
フロル自身が望《・》ん《・》だ《・》こととは言え、この分艦隊に配属されたことを後悔したい思いであった。
おかげで、この貴重な20分をフロル一人で対処しなくなっているのだ。
本来、フロルの地位であればこのまま司令官や幕僚が揃うまで動くことはできない。だがそれが自らの生死を左右するとなれば、話は別である。
だから、フロルは言葉を操った。
「時間的余裕がありません。現在、司令室にいる幕僚でとりあえずの指示を出しますがよろしいですね!?」
司令室にいる幕僚、つまりフロルだけである。
『わ、わかった。至急対処せよ!』
「了解!」
フロルは半ば叩きつけるように受話器を置いた。もしかしたら電話の先でパストーレが気分を害しているかも知れないが、知ったことでは無かった。気分どころか、自分たちを害する敵が目の前にまで迫っているのだ。言質はとった。あとはどうするべきか。
フロルは次の通信
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