第1部 沐雨篇
第2章 第4艦隊付幕僚補佐
008 イゼルローン回廊外遭遇戦
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て、腹心の家臣ととも単艦逃亡したのである。それが8月3日のことである。なぜ亡命するにあたってフェザーンではなくイゼルローン経由を選んだかに関しては、これは同時期に亡命を図ってフェザーン航路中に事故死した某男爵の事件を子爵が知っていたためとされる。
軍事機密を持ったまま軍事要塞から帝国貴族が亡命する事態になって、駐留艦隊司令官ヴァルテンベルク大将は3000隻の分艦隊を派遣した。追跡部隊にこれだけの艦艇を用意したのは、ブラウンシュバイク公の歓心を買わんとしたためとも言われている。追っ手の存在を察知した子爵は恐慌状態に陥った。捕まれば死罪は免れぬのは明白である。彼らは死に物狂いで逃走を続けたが同盟側のイゼルローン回廊を同盟側に少し出たところで、8月12日、補足され、撃沈された。
ここで不幸が重なる。
第4艦隊はイゼルローン回廊の同盟側において、惑星エル・ファシル領域の偵察任務から首都星ハイネセンへの帰還途中にあったのだ。自由惑星同盟においても、銀河帝国においてもその広大な支配領域全体に、常時から兵を配置することは不可能であった。であるならば、定期的な偵察に頼らざるを得ないだが、今回はそれが両軍にとって予期せぬ遭遇戦を作り上げることになったのある。
先に敵に気付いたのは帝国軍であった。補足されたのは同盟軍第4艦隊分艦隊3000隻。数の上では互角。帝国軍は同盟側に入り込み、帰還しようとした時になって、イゼルローン要塞への途上に同盟軍分艦隊を見つけたのである。
こうして誰一人、望んでいない戦いが始まった。
***
「帝国軍艦隊発見ッ! 方角は3時20分! 敵艦隊数およそ3000!」
同日7月21分、敵艦隊の知らせは分艦隊旗艦レオニダスに衝撃をもたらした。同盟、帝国の国境において偵察任務に出ていた艦同士が不幸な遭遇戦を引き起こすのはままあることであったが、それがともに3000隻であるという事態はそうそうあることではなかった。しかも遭遇領域は惑星エル・ファシルからそう遠い場所ではない、明らかに同盟側に入り込んだ宙域である。
叩き起こされたパストーレが押っ取り刀で艦隊司令部に駆けつけるまで10分はかかった。幕僚団も似たり寄ったりである。まともな交代制も引かないで、彼の幕僚団は暇な偵察任務を自室でやり過ごしていたのだ。
「私以外の幕僚を叩き起こせ! 敵艦隊来襲だ! パストーレ准将には私が電話をかける……その騒がしい警報を止めろ!」
敵艦隊発見のけたたましい警報が流れる中、フロルが最初に行ったのは当直通信士官への指示であった。
「敵の速度は! 時間的距離でいい!」
その司令部にあって唯一人、真面目に司令室に詰めていたのはフロル・リシャール中尉であった。フロルにしても気質は生真面目にはほど遠い人間であったが、
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