3部分:第三章
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ぐれもな。それでは本当にこれでな」
姿が消えていく。
「さらばじゃ」
こうしてパヨカカムイは消えた。姿を消してから起きると木像は何処にもなかった。あるのは網と竿と糸だけだった。その三つが置かれているだけだった。
シャクシャはすぐにこのことをナマウシに話した。話を聞くと妻はしきりに頷いてから夫に対して話すのだった。
「それはあれね」
「あれって?」
「いいことをしたからよ」
こう言うのだった。
「あんたが木像にお供えしたわよね」
「あれか」
「そのせいでこうなったのよ」
「こうなった?」
「そうだよ。悪いことをすれば悪いことが返って来るじゃない」
「ああ」
これは何時でも何処でも変わらないこの世の摂理だ。絶対に変わりはしない。因果応報と言う。だがこれは悪事だけではないのだった。
「そしてね」
「そして?」
「いいことをすればいいことが返って来るのよ」
「そうか」
「そうよ。全部返って来るからね」
「そんなにいいことした覚えはないんだがな」
だがシャクシャはここで腕を組んで考え込むのだった。彼にとってみれば些細なことでしかなかった。本当にそれだけのことでしかなかったのだ。
「あれだけだからな」
「それだけのことでも向こうは違うと思うんだよ」
ナマウシはまた言う。
「それはね」
「そんなものかな」
言われてもまだもう一つわかっていなかった。とうよりは自覚できないのだった。
「わしにはそんなつもりはないんだがな」
「向こうがどう捉えるかなんだよ」
今度はこう夫に告げるのだった。
「きっとカムイ様は凄く感謝してくれたんだよ」
「あれだけのことでな」
「小さな親切でもね。それの捉え方が違うから」
「そういうものかな」
「そういうものさ。わかったらね」
また言うのだった。
「その薬草を村の皆に教えてあげましょう」
「おっと、そうだ」
言われてそのことを思い出すのだった。少しうっかりとしていた。
「そうだったな」
「ちょっと、忘れないでおくれよ」
ナマウシはそんな彼のうっかりと見て苦笑いを浮かべて言うのだった。
「こうしたことはね」
「そうだな。村の人達のことを忘れたら駄目だな」
「それを忘れたらあんたじゃないよ」
また笑って彼に告げる。
「だからこんなものを教えてもらったんだしね」
「その通りだ」
最後に笑い合う。この後シャクシャは漁師になり猟師よりはいい暮らしができるようになった。ユーカラもさらに人気が出た。そして何より彼が教えた薬草により村人達は大いに助かった。パヨカカムイもカムイになれた。誰もが幸せになれたのだった。シャクシャの何気ない心掛けにより。
パヨカカムイ 完
2008・6
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