第二百七話 甲斐姫その五
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「そしてな」
「その者達が」
「まだおり」
「天下の裏で」
「何かをしようとしていますか」
「そうやも知れぬな」
こうだ、普段の信長のものとは違い今一つはっきりとしない口調で言うのだった。
「まさかと思うが」
「何事にも表と裏があるもの」
兼続が言って来た。
「そしてです」
「その裏にじゃな」
「まつろわぬ者がいても」
「おかしくはないか」
「どうでありましょうか」
さしもの兼続もだ、今ははっきりとしない言葉だった。
「それは」
「まつろわぬ者達はじゃな」
「はい、それがしも滅んだと思いまする」
「そうじゃな、先に出た先達によって」
そうなったというのだ。
「その筈じゃ」
「はい、ですから」
「少なくとも鎌倉幕府の頃にはおらなかった」
「平安の頃に遂に消えています」
その源頼光達が滅ぼしたのである。
「それで」
「うむ、室町幕府の時も出なかった」
「ですから」
「やはり絶えておるか」
「そうとしか思えませぬ」
兼続は信長にこのことは確かに答えた。
「そう思いまするが」
「やはりそう思うか」
「はい、流石に」
「そうじゃな、ではな」
それではとだ、また言った信長だった。今度はそれまで話していたそのことを消してだ、そうしてこうも言ったのだった。
「そのことは置いておいてじゃ」
「今は、ですな」
「小田原を」
「文を書くまでは仕掛け続ける」
「謀を、ですな」
「これまで通り」
「謀はだ」
それは、というのだ。
「続ける、それを仕掛けてな」
「城内の北条の動きをですな」
「止めますな」
「そうじゃ、仕掛けねば動く」
氏康はというのだ。
「仕掛けて止めてな」
「その間にですな」
「動きを止めて」
「戦を進めますか」
「小田原の外での戦を」
「そうしていく」
こうしてだった、信長は何か怪しいものを感じながらも小田原に謀を仕掛け城内の動きを封じつつ北条との戦を進めていた。
北条の城は次々と織田家に降っていく、だが氏規の守る韮山城とこの忍城だけはその気配もなかった、その忍城は。
今まさに水攻めがはじまろうとしていた、その夜にだった。
甲斐姫は北条の白の服の上から白の具足、陣羽織を身に着けてだった。そのうえ父の成田氏長に対して言った。
「では父上これより」
「うむ、うって出てじゃな」
「敵の堤を壊し」
そうしてというのだ。
「水攻めを防ぎます」
「そうするか」
「確かに敵は強いです」
甲斐姫は父にこのことも言った。
「織田方は」
「弱兵というがな」
「兵は強くなくとも」
それでもだというのだ。
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