第二百七話 甲斐姫その四
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「そのうえでな」
「奥羽もですか」
「攻めて」
「天下を一つにする」
まさにその時にというのだ。
「今ではない」
「まずは政ですか」
「それを行いまするか」
「領地がまた一気に増えた」
「この度の戦で」
「そうなったからこそ」
「治める、戦は何の為にするか」
戦い勝つ為ではない、まさになのだ。
「国を手に入れて治める為じゃからな」
「その為だからこそ」
「伊達との戦の後は政ですか」
「それにじっくりと時をかけ」
「そのうえで」
「それが整ってからじゃ」
まさにそうなってからだというのだ。
「そうした国々じゃ、よいな」
「はい、わかりました」
「では」
「うむ、それにじゃ」
「それに?」
「まだ何かあるのですか」
「うむ、妙に気になることがある」
ここでだ、信長は今一つ微妙な感じの顔になってだった。その顔で幸村と兼続に対してこう言ったのである。
「何かおる様な気がするのじゃ」
「何か?」
「何かといいますと」
「この天下の裏にじゃ」
怪訝な顔での言葉だった。
「何かがおる様な」
「この天下にですか」
「その裏に」
「何かがいると」
「そう仰いますか」
「古事記や日本書紀」
こうした書も挙げる。
「そして今昔物語にもあるか」
「古書に出ている」
「それは」
「まつろわぬ、鬼や土蜘蛛といった」
「そういった類のですか」
「怪しい者達がですか」
「おる様な気もするのじゃ」
こう言うのだった。
「何故かな」
「確かそうした者達は」
兼続が言う。
「最早」
「滅んだというな」
「はい、鬼も土蜘蛛も」
ひいてはまつろわぬ者達もだ。
「朝廷や坂の上田村麻呂、源頼光達により」
「その全てがな」
「滅ぼされたかと」
こう言うのだ。
「それがしはそう思いまする」
「書にはあるな」
「はい、その様に」
「わしもじゃ」
信長自身もというのだ。
「そう思っておるが」
「しかしですか」
「書は常に真実を書いておるか」
「それは
「書き漏らしもある」
「では」
「若しやな」
その若しやをだ、ここで言うのだ。
「まだ残っておるやも知れぬ」
「まつろわぬ者達は」
「そうやも知れぬ」
こう言うのだった。
「まあないとは思うが」
「それでもですか」
「うむ」
そうだというのだ。
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