第四十六話 横須賀その十一
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「それでさ」
「それで?」
「あとな」
薊はさらに話した。
「ここ結構古い孤児院なんだよ」
「建物は新しい感じだけれど」
「ちょっと前に建て替えたんだよ」
「あっ、そうなの」
「耐震が問題になってさ」
よく話である、地震はやはり日本における最大の驚異だからこそ。
「それで建て替えてさ」
「新しいのね」
「八条グループの慈善事業の一つで建てられてて」
「うちのグループそちらにも積極的だしね」
「ああ、訳のわからない団体よりずっと真剣に取り組んでるからな」
NGO団体等にある、慈善事業といってもそれを食いものにする悪質な団体も存在しているのが世の中なのだ。
「だからさ」
「この孤児院もあるのね」
「それで真面目に耐震もしてくれてるんだよ」
「そうなのね」
「それでここに四十人位いるんだよ」
薊は人数も話した。
「あたしもその中にいたんだよ」
「四十人、多いわね」
「ここは結構大きな孤児院だからさ」
そのこともあってというのだ。
「それだけ入られるんだよ、もっといけるぜ」
「四十人以上入られるのね」
「ああ、だからスペースは広いよ」
「いい孤児院ね」
「孤児院ってさ」
また言う薊だった。
「何か暗いイメージあるだろ」
「言われると」
裕香も薊のその言葉には頷いた。
「そうね」
「そうだろ、けれどこの孤児院はさ」
「そうじゃないのね」
「明るいんだよ」
そうだとだ、薊は裕香に明るい顔で答えた。
「だからあたしもさ」
「明るく育ってきたのね」
「正直寂しいとか思ったことないよ」
一度も、という顔での言葉だった。
「それこそさ」
「そんなに明るい場所なのね」
「気にならないって言ったら嘘だけれど両親が誰かとかもさ」
そうしたこともというのだ。
「院長さん達がそうだとも思ってきたし」
「育ての親ね」
「そういうことさ、院長さんと奥さんがさ」
「薊ちゃんのお父さんとお母さんなのね」
「お二人には子供がいないから」
余計に、というのだ。
「あたし達を子供だって言ってくれてさ」
「育ててくれたのね」
「そうだよ、ここを出る時もさ」
神戸に来たその時もというのだ。
「笑顔で別れてだったな」
「笑顔で、なの」
「お互い泣かなかったよ」
「明るくお別れしたのね」
「そうなんだよ、じゃあ今からな」
「その院長先生と」
「会おうな」
こう話してだった、薊は一行をある部屋の前まで案内した。その部屋の紹介の札には院長室と書かれていた。
第四十六話 完
2015・1・16
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