つぐない
とあるβテスター、宣言する
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おうとしたこともあるらしいよ。たまたま近場にいた《ユニオン》のメンバーが駆け付けたから、その時は未遂で終わったみたいだけどね」
「………」
少年の話を聞いているうちに、男の表情がみるみる不快そうなものへと変化していく。
男も世間一般のプレイヤーの例に漏れず、例え《黒の剣士》と呼ばれるPKKが台頭してこようと、自分さえまっとうに生きてさえいれば関係のないことだ―――と、思っていたのだが。
もし、この話が本当だとしたら。そんな男の考えは、あまりにも牧歌的だったと言わざるを得ないだろう。
男の言う“間違い”―――誤って他のプレイヤーを攻撃してしまい、意図せずオレンジになってしまったプレイヤーまでもが、《黒の剣士》によるPKの標的にされているということなのだから。
うっかりカーソルをオレンジに染めてしまい、そこを誰かに目撃されようものなら―――その瞬間《黒の剣士》の噂は他人事ではなくなり、矛先が自分に向いてしまうことになる。
攻略組クラスのプレイヤーでも歯が立たない程の剣技を誇るという《黒の剣士》に狙われれば、男のような一般プレイヤーは手も足も出せずにやられてしまうだろう。
自分には関係のないことだと話半分に流していた《黒の剣士》の存在が、急におぞましいもののように思えてしまい、男は思わず身震いした。
「そいつは……気を付けないとな。……というかお前、これって《ユニオン》の機密情報なんじゃないのか?こんな噂が広まったら街中がパニックになるぞ」
「まっさかー!こんなんでパニックになるわけないじゃん!」
「……だよなぁ、お前にはわかんねぇよなぁ。はぁ……」
男の心配を余所目に、少年はへらへらと笑う。どうやら当の本人には、自分の持ってきた“とっておき”がいかに大変なものなのか、まったく自覚がないらしい。
そんなパーティメンバーのお気楽な様子に軽く頭痛を覚えながら、男は再三に渡って溜息をついた。
相手が本当にオレンジかどうかというのは、結局のところは大した問題ではない。
それこそ、クエストによって罪悪値さえ回復させてしまえば、隠れオレンジとして堂々と主街区に出入りすることだって可能なのだから。
むしろここで重要となるのは、これまでPKKだと思われていた《黒の剣士》が、次は“グリーンを”狙っているという事実だ。
相手に殺人歴があろうがなかろうが、システム上でグリーンを維持している相手を攻撃すれば、その時点で《黒の剣士》は犯罪者として認識されてしまう。
人間というのは単純なもので、自分には関係がないと思うものに対しては徹底的なまでに無関心を貫けるが、反面、「明日は我が身かもしれない」という意識がある場合は、その元凶となるものに対してどこまでも攻撃的になれる生き物だ。
特に日本人はその傾向が顕著であり、「疑わしきは罰せよ」ではないが、
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