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狐忠信  〜義経千本桜より〜
4部分:第四章
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第四章

「ここは私が」
「そなたが防いでくれるというのか?」
「その通りです。鼓を頂いた御恩」
 このことを述べるのであった。
「今それを果たさせて下さい」
「わかった。ではここは任せよう」
「はい、それでは」
「よし、行くぞ!」
「義経殿お覚悟!」
 そしてすぐに長刀や金棒を手にした僧兵達がやって来た。彼等の先頭にはとりわけ大きな、そうして何処か気品を漂わせた男がいた。
「あれがか」
「そうです、あの男がです」
 僧侶は義経に告げた。本物の忠信も出て来て彼は義経と静の前に刀を抜いて身構えている。
「横川覚範です」
「そうか。あれがか」
 義経はその顔を見て。思い当たるものがあった。
「まさかな」
 しかし今はそれについては何も言わず刀を抜いた。そしてその彼にまた狐が言うのであった。
「では私が」
「任せたぞ」
「はい、それでは」
 狐はすぐに攻め寄せてきた僧兵達に向かって右手の首を上から下に動かした。すると僧兵達はその動きに合わせたかのように転んでしまったのだった。
「うわっ、これは」
「何事だ!?」
「義経様に頂いた御恩」
 狐は彼等を術で転ばせたうえで言う。
「それを今ここで」
「何っ、狐か貴様!」
「例え狐であろうとも!」
 その長刀や金棒で再び襲い掛かろうとする。しかしそれよりも先に狐はまた仕掛けた。今度は青い火を自分の周りに次々と出してくるのだった。
「何っ、鬼火か!?」
「いや、違う」
 僧兵達の中にはこの火が何なのかわかった者がいた。
「これは狐火だ」
「これがか」
「そうだ。気をつけろ」
 仲間達に対して言うのであった。見ればそれは確かに狐火であった。青白い火球達がその狐の周りでゆらゆらと宙に漂っていた。
「この火は只の火ではない」
「何が起こるかわからないか」
「そうだ」
 彼等は警戒し何が起こるか恐れていた。狐はその彼等に対し火を向かわせたのであった。
「行けっ」
「来たぞ!」
「くっ!」
 僧兵達はその火の球を何とかその手に持っている長刀や金棒で消そうとする。しかしそれは適わずかえってその火に襲われるのだった。
「くっ、これはかなわん!」
「退け!退け!」
 僧兵達の中の誰かが言った。
「ここは退くぞ!」
「狐が相手では仕方ない!」
 こう言い合って彼等は退いた。しかし一人だけ残っている者がいた。その彼に義経が声をかけるのだった。彼の左右には静と忠信が彼を守ろうと身構えている。
「御主は去らないのか?」
「そうだ」
 僧兵達の先頭にいたあの横川覚範だった。彼だけが残っていた。
「私は去らぬ」
「御主の部下達は逃げ去った。それでもか」
「九郎判官義経よ」
 横川は彼の名を言ってきた。
「私の顔を覚えているか」

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