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狐忠信  〜義経千本桜より〜
3部分:第三章
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第三章

「しかし今本物の忠信様に疑いがかかっては申し訳ありません。これはまさに」
 涙と共に言葉を出していく。
「早く帰れという親の言葉。私には聞こえます」
 鼓にも目をやるのだった。
「父上、母上私はもうこれで。さようなら」
 こう言って姿を消そうとする。しかしここで義経が出て来た。そうしてその狐に対して言うのであった。
「話は聞いた」
「義経様」
 狐はまず彼の前に畏まった。
「その節は御無礼を」
「それはいい。しかしそなたも同じなのだな」
「同じといいますと?」
「知ってはいよう。私もまた親がいなかった」
 義経はここで己のことを語ってきた。
「幼い時に父を殺され母を入道殿に奪われた」
「そうでしたね、それは」
「義経様・・・・・・」
 狐だけではなかった。静もまた今の義経の言葉に思わず目を伏せさせた。
 彼の父義朝は彼が一歳の時には落ち延びる中で信頼していた者に湯の場で殺されている。そして母は自分の命を助けることと引き換えに清盛の側室となったのである。入道殿とはその清盛のことである。彼が出家したことから来る名であったのだ。
 しかもだ。それだけではなかった。
「今も」
「はい、そうでした」
 狐は義経の話に沈痛な顔になった。
「親とも頼む兄上に憎まれる有様」
 それが義経なのだった。彼は生まれてから今に至るまで血縁の者との愛には恵まれていなかった。その自分自身と狐を重ね合わせていたのである。
「我が名を譲ったこの狐もまた。その私と同じか」
「義経様・・・・・・」
「狐よ」
 そして今度は狐に対して声をかけたのだった。
「そなたには私の名を授けたな」
「はい」
「では今からそなたのことを源九郎と呼ぼう」
 その義経の名前である。
「静を助けてくれた礼をやりたい」
「礼なぞは」
「いや、それはならん」
 謙遜して断ろうとする狐に対して優しい声で告げた。
「それでは私の顔が立たないではないか」
「そういえば確かに」
「だからだ。受け取ってくれ」
 こう彼に言うのであった。
「是非な。それでやるものはだ」
 静から鼓を受け取った。その彼の親から作られた鼓をだ。
「法皇様から頂いた大切なものだがこれをやろう」
「それは・・・・・・」
「親であったな」
 義経の言葉はさらに優しいものになった。
「ならばこれで親孝行をするのだ」
「あ、有難き御言葉」
 狐は最早何と言っていいかわからなかった。喜びのあまりまた涙が出るのであった。
「ではその鼓を」
「さあ、受け取るのだ」
 実際に鼓を彼に対して差し出してみせた。
「そなたの親達だ」
「何という・・・・・・」
 鼓を受け取った彼はまさに感無量であった。喜びに身体を打ち震わせている。しかしこの場に。一人
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