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第一章
狐忠信 〜義経千本桜より〜
源義経には静御前という愛妾がいた。だが彼は兄頼朝に命を狙われ彼女と別れその身を隠さなければならなくなってしまった。
当然ながら彼女とも別れなければならず忠臣である佐藤忠信に彼女のことを任せそのうえで静に初音の鼓を手渡し落ちていったのであった。
だが九州に落ちることは適わず今は大和の吉野に身を隠していた。そこに彼と縁のある河連法眼がいて彼を頼ることにしたのである。
彼は吉野の僧兵達を仕切っていた。当時僧兵の力は強くそれはまさに一つの国家のようなものだった。頼朝もそこならば手出しはできなかったからだ。
その義経が隠れている館に今一人の若い武士が訪れてきた。義経が彼の顔を見ると実に懐かしい顔であった。
「おお、忠信ではないか」
「はい、義経様」
気品のある顔立ちの凛々しい若武者が義経の前に控えていた。その凛々しさは義経と比べても全く遜色のない程である。黒い旅の袴と上着、それに編み笠を持っている。
義経は彼の顔を見てすぐに。こう問うたのであった。
「して静は」
「静といいますと?」
「だからだ。静御前のことだ」
彼は忠信が静を守るといったことを言っているのだ。
「無事か?それで」
「あの、それは」
しかしであった。忠信の返答は要領を得ないものだった。主の問いにきょとんとさえしている。
「静様とは」
「だからだ。守ると言ったではないか」
「守るですと」
「そうだ、静をだ」
二人は問答を続けていく。しかしどちらも要領を得ないものだった。彼等は左右に桜の木がある館の前で話をしている。館の前は欄間があり義経は四段の階段の上にある館の廊下のところから忠信に対して話をしているのだった。丁度主が上座になっていた。
「言った筈だ。覚えていないというのか?」
「御言葉ですが」
しかしやはり忠信の言葉は変わらなかった。きょとんとしたままである。
「何が何のことか」
「まさか御主」
義経は次第にその顔色を変えてきた。そうして忠信を怪しみだしたがここで思い直しもしたのだった。
「いや、それはないか」
疑おうとしたがそれを止めてしまったのだ。彼がそうしたような男ではないことは他ならぬ自分自身が最もよくわかっていることだったからである。
しかしであった。彼の言う言葉にも矛盾がある。どうしたものかと思っているとここでまたしても来客が訪れたのであった。それは。
「義経様、お懐かしゅうございます」
「何っ、そなたは」
今度来たのは華やかな外見の美女であった。色香漂う面持ちであり赤い美しい衣に頭にはみらびやかな飾りがある。左手の杖と編み笠は旅をしていた証となっていた。
「静ではないか」
「はい、ようやくこちらに参ることが
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