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狐忠信  〜義経千本桜より〜
1部分:第一章
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できました」 
 こう義経に告げるのだった。彼女こそが静御前だった。彼女が今義経を慕いこの吉野にまでやって来たというわけなのである。
「それにしても」
「拙者ですか?」
「そうです。忠信殿」
 静は今度は忠信を咎める顔で見てきた。そうしてそのうえで彼に言うのだった。
「また見えなくなっていたと思ってましたら」
「またとは?」
「先に行ってらしたとは。いつものこととはいえどういうことですか?」
「どうしたもこうしたもです」
 忠信は訳がわからないがそれでも言うのだった。義経にしろ事情が全くわからずと惑っている。忠信はその中で二人に述べるのだった。
「私は今郷里から来たばかりです」
「何だとっ!?」
「そんな」
「いえ、本当です」
 彼は真剣な顔でまた二人に告げた。
「もしや誰かが私に成り済ましていたのでは?」
「馬鹿な」
 義経はそれを聞いてまずは首を傾げた。
「そのようなことが」
「いえ、そういえばです」
 しかしここで静が義経に対して述べるのだった。
「こちらの忠信様は何か様子がおかしいような」
「様子がか」
「それにです」
 彼女はさらに言葉を続けてきた。
「おかしなことがありました」
「おかしなこととは?」
「その忠信様はいつもすぐにおられなくなるのです」
「それもおかしなことだな」
 義経はそれを聞いてまた述べた。
「忠信はすぐに姿を消したりするような者ではない」
「そうですね。しかもです」
 ここで鼓を取り出してきた。あの義経から貰った初音の鼓である。

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