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八月某日、君に良く似た死神を見た
八月某日、君に良く似た死神を見た
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 八月、異様に暑い夏の日の出来事だった。
「総悟が……死んだ?」
 電話越しに発した声が震える。
 信じたくなかった。でも俺が一番信頼してる人からの知らせだった。
 病院まで急いで自転車を走らせた。
 そこには、傍らで男泣きしている近藤さんと青白い顔で横たわる恋人の姿があった。
 まるで眠っているような死に顔。今にも起き上がって「なんちゃって、驚きやした?」とか言い出すんじゃないかと疑うくらいに綺麗な死に顔だった。
「総悟……冗談だよな、いつもの冗談なんだよな?」
 現実をすぐには受け入れきれなくて、縋るように抱きついた身体に体温はなくて。全て現実だと思い知らされる。
 その瞬間、俺の世界の色彩は消えた。近藤さんが太陽でアイツは世界の色彩だった。
 何よりも大切な二人なのに、その一人がもうこの世界にいないなんて。
 段々色彩だけじゃなく何も感じなくなった。煙草を吸っても好きな映画を見ても、大好きな筈の土方スペシャルを食べても何とも思わない。
 何しても楽しくねェ。何食っても美味くねェ。そもそも生きてる意味って何だろう。そう考えてしまったら、もう駄目だった。




「トシ……お前まで置いていかないでくれよ」
 ベッドの傍らで近藤さんが頭を抱えている。気が付いたら病院の個室のベッドの上にいた。
 頭上のカレンダーを見ると八月某日。アイツの命日だった。
「お前がいなくなったら俺ァ……一人じゃねェかよ」
「何言ってんだよ近藤さん。山崎だっているじゃねーか」
「そうだけどよォ……俺の親友はやっぱお前と総悟だけなんだよ」
「そりゃ嬉しいな……」
 力なく笑うと近藤さんの顔がくしゃりと情けなく歪んだ。そんな顔しないでくれよ、アンタは隣でいつも笑っていてくれりゃ良いんだ。
 近藤さんの手を握ろうにも身体が言う事を聞かない。右腕を見ると痛々しく包帯が巻かれ、管が繋がれているものの何とか動かせる左手で頭を触ると額にも包帯が巻かれているようだった。両足も同様に。左手じゃ近藤さんには届かない。
「死ぬな、トシ」
「そう簡単にくたばりゃしね……え?」
 左にある窓際に顔を向けた時、俺は信じられないものを見た。
 窓枠に座る人影。夕日に照らされてキラキラと光る蜂蜜色の髪、蘇芳色の丸い瞳、白い肌。
 漆黒のマントを羽織って妖しく微笑む、その姿は――。

「……総悟……」

 気が付けば名前を呼んでいた。温かい雫が頬を伝う。
「……トシ?」
「近藤さん、そこに総悟が……」
「何言ってんだ、総悟は一年前にお前と同じように交通事故で……」
「だって、ほら」
 窓枠を指差すと、手が伸びてきてそっと優しく握られた。その手は冷たくて、もう生きてないんだと思うと少し悲しかった。
「トシ……お前……」
 そんな悲しそうな顔するなよ近藤さん。俺も総悟もここにいるのに、近藤さんには総悟が見えないらしい。
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