鎧武外伝 斬月編
天秤
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朱月藤果にまつわる一件が終わって一晩が経った。
昨夜。傷だらけで帰って来た貴虎の表情を見れば、何かしらの形で終わったのだと察せられた。貴虎にとっても、藤果にとっても。それもおそらくは、悲しい形で。
碧沙も光実も貴虎を手当てすると申し出たのだが、貴虎は「しばらく一人にしてくれ」とだけ告げて、その夜は自室から出て来なかった。
ぼんやりと、長兄に何か訴えたいことがあった気がした碧沙だったが、結局は何も言えずに夜は更けた。
そして、翌朝。
休日なので遅く起きた碧沙は、着替えてから、朝食のために食堂に向かった。
食堂のドアを開けようとした時、声がした。貴虎と光実が会話している声だ。
(この時間に兄さんたちがそろってるなんてめずらしい)
興味本位だった。碧沙はドアに頭を当てて中の会話に聞き耳を立てた。
「光実」
「なに、兄さん」
「身近な誰かが目の前に立ちはだかったとして、お前はその人を倒すことができるか?」
――その一言は、貴虎と藤果のことを言っているのだとすぐに知れた。
できるだろうか、と考えてみた。
碧沙にとっては、咲を含むリトルスターマインの仲間、ダンススクールの講師、そして、兄たち。彼らが、碧沙の前に立ち塞がった時、碧沙はどうするのか――
(わたしなら、きっとそんなことしたくなくて、自分自身を殺す道を選ぶ)
「大切なもののためなら、多分できる――けど、やらない。その人も、それ以外の人も傷つけない道を探すよ。その『身近な誰か』が『大切なもの』だったら、目も当てられないからね」
「……言うじゃないか」
「誰かさんのせいでね」
間が空いた。
イスが床をこする音と、革靴の足音がした。
「いつかまた墓参りに行こうか。母さんと、それに今度は父さんにも。俺とお前と碧沙と、兄妹全員で」
「……うん。いつか、ね」
(いつかっていつ? その時に沢芽市は、地球はどうなってる? 貴兄さんも光兄さんもちゃんと生きてる? わたしたちが行くためのお父さんとお母さんのお墓は、ちゃんと残ってる?)
靴音がドアに近づいてきた。
碧沙は慌ててドアを離れ、走って行って装飾品の後ろに隠れた。
貴虎と光実が食堂から出て来た。
「いってらっしゃい。兄さん」
「ああ。行ってくる」
貴虎が玄関へ行き、ドアを開けて出て行った。
貴虎はいつものようにユグドラシル・タワーに出社し、人類救済のために働くのだろう。
光実はいつものように補講のために高校へ出て、ルーチンワーク同然の勉強をするのだろう。
碧沙もまた、ダンススクールへ通ってダンスを習い、ビートライダーズとして踊る。
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