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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第二八話 一線
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い。

「……ひょっとして、私宛ですか?」
「ま…な。本人の目の前で遺書を書くのもどうかと思うが―――正直、許嫁に遺す言葉とやらがよく分からん。
 死んだ時を考えても仕方がないと思ってきたからな。」

常在戦場、死んだのならそこまで。
潔いとも無責任とも取れる精神性……死ねない理由のなかった自分には定型文的な遺書しか書いた記憶がない。
正直に言えば、自分亡き後の唯依に何を言いたいのかさっぱり分からない。

―――こればかりは何度、無量大数の輪廻を繰り返してもさっぱりだった。
己が死んで笑っていられても複雑な心境だし、ずっと悲嘆にくれて泣いていられても悲しいのかうれしいのか分からない。

己との想いを胸に戦う道を選んだとしても……結局、どういう状態になったとしても傍に居たい。それ以上の言葉がない。
『傍に居るから、』その後に笑って、安心して、前を向いて……そんなありきたりな言葉なんぞ蛇足にしか思えない。

結局のところ、どう思うかという答えを出すのは生者が自身につける折り合いでしかない。事実は何も動かない、変わらない、戻らない……何一つとして。
ならば余分な言葉なんぞ残しても振り回してしまうだけのような気がして筆無精となってしまう。


「……私はあの時―――忠亮さんには心のままに、なんて恰好の良いことを言いましたけど………本音を言うのなら手術を受けてほしくは、ありません。」

「そうか」
「はい……我儘な女ですよね。」

思いつめた眼差し、きっと、唯依の中で葛藤があったのだろう。
戦うことを諦めない己で居てほしい、サポートは自分がやるから命を危険に晒さないでほしい。
そんな二律背反があったのだろう。


「……いやな思いをさせたな。すまない。」
「いえ、私の我儘ですから―――本当なら、今でさえ口にすべきじゃないのに……情けなさで悔しくなります。
 決めたのは忠亮さんです……ただ、私の想いも知っていて欲しかったです。」

「分かってるさ……」

そう口にして唯依の頭を抱き寄せる……柑橘系の石鹸とシャンプーに唯依の匂いが混じった香りが漂ってくる。
彼女と悲しませたくはない―――それでも己は戦うことを止められない、剣を手放してしまえば俺は俺で無くなってしまう。

守るために戦う、その歪な願いこそ己の中の最も譲れぬ根本、根元なのだから。

「お前は己の許嫁だろ?ならば(おれ)にはそう云うのを吐き出していいさ――己は家政婦を雇ったわけじゃないからな。
歩み寄り、それが大切だろ。特に(おれ)たちには。」
「あんまりそう言われると、少し恥ずかしいです。」

「……実は言っている己も歯が痒い。」
「ふふっ。」

髪を撫でられる唯依が和らいだ笑みを零す。……どこか風に揺れる一輪
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