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第一章
幸せは消えて
一人の旅人がいた。彼は二羽の烏を連れていた。彼はマントに身を包み縁の広い帽子に一本の槍、それに杖を持っていた。着ているものはローブであった。
「ねえ御主人様」
「何処に行くんですか?」
「このまま」
彼はこう烏達の言葉に答えた。見れば髭はなくまだ幼さの残る顔をしている。金髪に青い目である。背は高く逞しい身体をしているのもわかる。
「このまま気が向くままね」
「何だ、いつも通りですね」
「気が向くままですか」
「うん」
そして烏達の言葉に答えるのだった。
「いつも通りね。何処かに辿り着いたらそこに入るし」
「ああ、そういえば」
「もうすぐ国に入ることができますよ」
ここで烏達が言うのだった。彼等はそれぞれ若者の周りを飛んでいる。飛びながらそのうえで主と思われる若者に声をかけていた。
「確かもうすぐです」
「アリュート国でしたっけ」
「アリュート国?」
若者はその名前を聞いても首を傾げるだけであった。
「それはどんな国なんだい?」
「いえ、私もよく知らないんですけれどね」
「私もです」
ところが烏達は今の若者の言葉にはすぐには答えられなかった。
「何しろ新しくできた国で」
「最近できたんですよ」
「最近できたんだ」
若者はそれを聞いて考えるような声で述べた。
「そのアリュートという国は」
「ずっと流民だったアルト族が作った国でして」
「アルト族は知ってますよね」
「ああ、あの人達だね」
若者もそのアルト族という名前には反応を見せた。彼は話をしながら草木もろくにない荒野を進んでいる。そこには人はおろか動物すらいない。
「もう二〇〇〇年も彷徨っていたっていう」
「そうなんですよ」
「古代帝国に国を滅ぼされてから」
これはかつての歴史であった。
「それで世界中に散らばって彷徨っていたという」
「あの人達です」
「そうだったね。僕も何度も会ったよ」
若者はここで言うのであった。
「あちこちで商人をしていたり学者をしていたり」
「ええ。それに高名な冒険者にも多いですよね」
「国や街の実力者になってることも多いですよね」
どうやら彼等の中ではアルト族というのは優秀だと思われているらしい。少なくともそうでなければ彼等が挙げたものにはなれないことだった。
「けれどあちこちで迫害されてもいますし」
「だからみたいですよ」
「自分達を守る国が欲しかった」
若者はここで言った。
「そして祖国が」
「ええ。それで作られた国なんですよ」
「そのアリュートっていう国は」
「けれどどうしてアリュートなんだろう」
若者が次に考えたのはこのことだった。
「どうしてその名前なのかな」
「何でも
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