羅生門の怪
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[9]前 最初
「しかし困ったことになったな」
「うむ」
狸も狐に倣うように頷いた。
「これから京都では遊ぶことはできんな」
「どうするのじゃ?」
「摂津にでも行くか。それか河内か和泉にでも」
「あちらに下るのか」
「あそこならまだ人も都程多くはないじゃろうからな。あんなおっかない侍もいないだろう」
「そこで人を化かすつもりか」
「うむ。人に懲らしめられただけで退いたとあっては狐の名が廃る」
そう言って啖呵を切った。
「狐は人を化かしてナンボだからな」
「それはわし等も同じじゃぞ」
「まあそうじゃが」
今一つ締まりがない狐であった。だがそれでも言う。
「それにあそこで近々とてつもない御仁が出て来るそうじゃ」
「摂津でか」
「それも安部野にな。どんな者なのか見てみたくなったわ」
「そうか。では行くがいい」
「お主はどうするのじゃ?」
「そうじゃのう」
今度は狸が考え込んだ。
「ここにも正直飽きてきたところだしのう」
「ふむ」
「お主と共に行くか」
「では思い立ったが吉日じゃ。行くか」
「よし」
二人は早速足を摂津の方に向けた。そしてそちらに歩いていくのであった。
源平太夫の名は都に知られることとなった。その勇比類なし、と。彼はそれを大層自慢にしていたがそれでも常々こう言っていた。
「化け物に負けたとあっては侍の名折れ」
「あやかしに背を向けることはしない」
と。そうした意味で彼は真の武士であった。
羅生門の怪 完
2005・9・9
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