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羅生門の怪
羅生門の怪
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えた。
「御稲荷様に限ってそんなことはありません」
「そうであろう。ではわしの言いたいことはわかるな」
「はい」
 狐は項垂れるようにして頷いた。
「これに懲りたならばもう二度と人を化かしてはならんぞ。よいな」
「わかりました」
「わかればよい。では」
 平太夫は狐に背を向けた。
「それではな。わしはこれで帰る。以後こうしたことのなきよう」
 そして馬に乗り羅生門を後にした。その背中はすぐに闇の中へと消えていってしまった。
「ふう、まさかなあ」
 狐は平太夫の姿が消えたのを見てようやく胸を撫で下ろした。
「あんなに手強いとは思わなかったよ」
「おう、大分絞られたみたいだな」
 ここで藪の中からまた声がした。
「ああ、あんたか」
「だから言っただろう?あの人は止めておけって」
 その藪の中からにょっきりと顔が出て来た。それは狸のものであった。
「如何にもって感じの怖そうなお侍だったじゃないか」
「外見だけだと思ったんだよ」
 狐はふてくされながらそう答えた。
「だってまさかと思うだろ」
「まあそれはな」
「大男になっても怖気づかないなんて。まさかと思うじゃないか」
「あれはわしも驚いたがな」
「普通はあそこで逃げ出すものだけれど。いやあ、あのお侍は違った」
「並の人ではないな」
「ああ。こりゃこれからここでは悪さはできんぞ」
「何じゃ、まだ懲りてはおらんのか」
「といってもこれがわし等の仕事じゃからな」
 狐は悪びれずにそう言ってのけた。狐や狸にとっては人間を化かしてそれを見て楽しむのが仕事である。特に子供を驚かせて甘いものをくすねたりするのが好きだ。狐も狸も甘いものは大好きなのである。
「止めろと言われてはいそうですかというわけにもいくまい」
「いい心掛けじゃ」
 狸はそれを聞いて前足を組んで頷いた。目を閉じ如何にもわかったという感じであった。
「どうやらお主も成長したのう」
「褒めたって何も出ないぜ」
「いや、そうではない。素直に感心しておるのだ。あの赤子がここまで立派になったのかと」
「まあ旦那程歳はくっちゃいないがな。おっかさんにここに連れられた時はわしもまだ若かった」
「御母堂はお元気か」
「ああ。比叡山で今でも元気にやってるよ」
「御父上やご兄弟は」
「親父様はおっかさんと一緒さ。兄弟は兄弟で奈良とか須磨に言ってるさ。元気なものだ」
「それは何より。しかし須磨とは」
「どうしたんだい?」
「また辺鄙な場所に行っておるな」
「それは人間の基準じゃろ」
 狐はそう反論した。
「わし等にとっちゃ辺鄙でも何でもないぞ」
「ははは、そう言われればそうだったな」

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