暁 〜小説投稿サイト〜
SAO−銀ノ月−
ファントム・バレット-girl's rondo-
第七十七話
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取り出した。確かに扱いの難しい素材だが、だからこそ、それを作り出せた時の成果も約束されている。

「ふぅ……」

 一息。ハンマーを振り下ろす前に、少し自らの気持ちを落ち着かせる。こればかりは、剣道の試合だろうとなんだろうと変わらない。

「……っと!」

 一拍の気合いととともに、銀色のハンマーがインゴットに向け、壊れないくらいの力加減で叩き込まれる。あとはもう規定回数を叩くだけで、出来る品物はランダムになるらしいが、師匠でもあり店主殿の教えは違った。必ず気合いや想いなどが関わっていると、リズはそう言ってはばからないし、そう言った彼女の作品を俺は見てきている。

 ならば自分もその教えに従おう。取りあえず今回は、その新たな仮想世界の調査の無事を願うことにする。祈りを込められたインゴットは叩くごとにその形を変容していき、まるでスライムを殴っているような感触がしていた。そのインゴットらしからぬ形に少し失敗を疑ってしまうものの、隣に控えているリズは真剣そのもので、失敗をからかうようなそんな様子はない。

 しばらくの間、カーン、カーン――というハンマーの音だけが空間を支配していき、金床のインゴットからはその音と連動するように火花が散っていく。いくばくかの時が流れていくと、ゲル状に散らばっていたインゴットが光り輝いていく。……大分やきもきさせられたものだが、ようやく完成の時だ。

「……ふぅ」

 ゲル状のインゴットが光とともに収束していき、武器として形作られていく。そうなったらもう、プレイヤーが手を出せる領域に武器はなく、始める時とはまた別の吐息が俺の口から漏れる。

「お疲れ様!」

 リズの労いの言葉もそこそこに、光るインゴットが武器となって新たにこの仮想世界に転生する。素材のためか、透き通るような……まるで氷のような刃が特徴的な、日本刀――もとい、カタナがそこには出来上がっていた。

「って、やっぱカタナなのね」

 どことなく諦めたような、悟ったような口調をしたリズが、その持ち前の鑑定スキルによって査察に入る。そこにはいつもの笑顔のリズはおらず、1人の商売人のような真剣さを見せていた。インゴットを打っている時と似たような、短いはずでありながら長い時間が流れ、次のリズの一言を直立不動で待ち続ける。

「……うん、まあまあね。合か……ってあんた何よ、その式典に立つみたいな態勢」

「おっと」

 無意識に緊張しすぎていたらしい。きっちりと背を伸ばしていたのを楽にすると、リズから言われた言葉をもう一度反芻する。

「ん。これなら充分、注釈付きなら店売りに出せるわよ」

「そうか……!」

 注釈付きというと何だかマイナスイメージを持たれてしまうが、この店に来る客は《鍛冶屋リズベット》の品を
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