第5話
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『斗詩達』の命が天秤に掛かっていた。
彼女達を優先するのなら簡単だ、事態を長引かせれば危険が増えるだけなのだからさっさと葛藤なんて物を捨て去り 一切躊躇する事無く敵を屠ればその後の不測の事態にも十分対処できた。
『斗詩達』に命の危機が訪れる事もなかったはずだ。
「貴方今、『斗詩達』の事だけを思って後悔しているでしょう?その天秤には貴方の命も掛かっていたのに」
吐き出すように話しを続ける叔母の目には涙が浮かんでいた。
「普段、自己中心的な態度をとる貴方が他者を優先しがちなのは知っているわ、それはとても美徳だとも思う。でも自分の命を軽視していい理由にはならないわ」
袁隗の怒りそれは未熟な三人で街に出かけ、二人だけで事にあたり、護衛を下げて前にでる―――。
それらの事柄に共通した袁紹の自分の命を軽視した行動に対しての怒りだった。
「そしてそれは、貴方を信じて慕っている者達全員の気持ちを踏みにじる行為よ、だから……約束しなさい」
そこまで言うと袁隗は、頭一つ分小さい袁紹を抱きしめた。
「!?」
突然感じた温もりと気恥ずかしさから思わず身をよじる袁紹だったが、まるで逃がさないと言わんばかりに抱きしめる腕に力が籠められた為その動きは止まった。
「もう二度と自分を軽んじたりしないと……」
そこまで話して袁隗は口を閉じる。最後の言葉の声色には始め憤怒した人間と同一人物とは思えぬほどに慈愛と悲痛に満ちたものだった。
そのことからも袁隗がどれだけ袁紹の身を心配ていたかがうかがえる。そしてその言霊を受けた袁紹の目には光が戻っていた。
「約束致します叔母上……、『我』はもう二度と自身を軽んじたり皆の想いを踏みにじったりしないと!」
………
……
…
この世界に生れ落ちた彼はどこか『ゲームの世界』にいるような感覚に陥っていた。史実では叔父であるはずだった袁隗、男の猛将であるはずの顔良と文醜、武器庫に保管されていた時代錯誤な武器の数々、そしてその大剣や大槌を細腕で振り回す斗詩と猪々子の姿、これらの光景はまるで前世で見てきた漫画やアニメのようで……
袁紹はいつしか『ゲーム』をしている気になっていた。そして倍の大きさはあるであろう大男が振るう剣を弾き飛ばすことが出来る自分の『キャラクター』として技量に酔ってすらいた。
しかし敵の増援により無力化する余裕が無くなり『命のやり取り』をする場に変わったとき、彼の意識は唐突に現実へと引き戻された。
命のやり取りの先に待つであろう光景は前世では余りにも自身と無縁な光景で、彼には受け入れがたい事実だった。
そして散々葛藤したあげく、最悪の結果になりかけた。
彼には覚悟が足りなかったのでは無く、覚悟すること事態無意識に放棄していたのだ――
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