1部分:第一章
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母は猫は嫌いではない。父もだ。むしろかなり好きな方である。去年までかなり年老いた猫を飼っており、それがいなくなって寂しい思いをしていた程である。
「丁度今いないしね」
「じゃあ飼っていい?」
「ええ。そのかわりちゃんと面倒見るのよ」
「うん」
こうして黒猫はすぐに家族に迎え入れられた。とりあえずは風呂に入れられその後で晃の部屋に入れられた。そして猫用のミルクを与えられていた。
部屋はごくありふれた中学生の部屋だった。勉強机にベッド、プレイステーション2、そして本や漫画、CDにゲームソフトが入れられた本棚。壁には女性アイドルグループのポスターにサッカー選手のサインが飾られている。特に何の変哲もない部屋だった。今ここに人間の言葉を話す猫がいる以外は。
「悪いな、飼ってもらえるなんてよ」
猫はミルクを舐めながら言う。
「話すだけだと思ったのに」
「どうせ野良猫だったんだろう?」
「まあな」
黒猫は顔を上げてそれに答える。
「生まれてからな。ずっとこの街にいたけれどな」
「どれ位?」
「まだ一年も経っちゃいないか。まあそんなところだ」
「じゃあ猫の年齢で言うと二十歳位?」
「そうだな。まあ御前さんよりは年上になるな」
猫は一年で成年になる。子猫から急に大きくなるものなのである。
「じゃあお兄さんか」
「歳のことなんていいさ。どっちみち人間と猫じゃ比べ物にならないし」
「それもそうだね」
「で、話だけどな」
猫は道での話に戻ることにした。
「俺が話せるようになったわけだがな」
「やっぱり何かあるんだね」
「そうさ。実はな、食べたんだよ」
「何を?」
「脳味噌をさ」
猫は言った。それを聞いて晃の顔にさっと不吉なものが走った。
「脳味噌って」
「人間の脳味噌をな。食べたんだよ」
「えっ」
それを聞いて思い切り引いた。顔が青くなる。
「人間のって」
「街の外れの寺でな。もらったんだよ」
「街の外れの」
もう潰れかけの古い寺だ。年老いた住職が一人いるだけだ。最近では殆ど姿を見せないし人も来ない。時折肝試しにも使われるような場所である。お化け屋敷の様に街では言われている。
「あそこに」
「あそこはな、まだ土葬なんだよ」
猫は言う。
「それで脳味噌もな。残るんだよ」
「まさか」
だが晃はその言葉を否定した。
「そんなこと。それにまだ土葬なんて」
「わかっちゃいないな。確かに昔に比べて減ったらしいけれどな」
猫は晃に説明した。
「まだ残ってる場所もあるんだよ。火葬じゃない墓も結構残ってるんだぜ」
「そうだったの」
「その死体からな。脳味噌を拝借するんだよ」
猫の顔が無気味なものに見えてきた。まるで化け猫のそれの様に。
「それを食べるとな。こうして話せるよう
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