1部分:第一章
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思っていた。だからこの話を白けた顔で聞いていた。どうせすぐに消えてまた別の話題に移っていく。そう思っていた。
その日もそうだった。彼は部活を終えて自転車で家に帰っていた。その途中ふと声がしたのだ。
「なあ」
「!?」
最初は同じ部活の誰かが呼び止めたのだと思った。
「なあって」
また声がした。思わず自転車を止めた。
「誰なんだよ、一体」
もう辺りは暗くなりはじめている。彼はその中で周りを見回した。
「誰もいないじゃないか」
「いるよ」
けれどまた声がした。
「いるって何処にだよ」
やはり誰もいない。家と灯りが見えるだけだった。もう段々寒くなってきていた。出来ることならこのまま帰りたかった。
「だからここだって」
声は下の方から聞こえてきていた。そしてそこには一匹の黒猫がいた。
「ここだって」
「俺だよ」
その時黒猫がしゃべった。
「俺が呼んでたんだよ」
「呼んでたって」
その黒猫を見て晃の顔が段々強張ってきた。
「まさか、なあ」
にわかには信じたくはなかった。今までそれを頭から否定してきたのだから。
「そのまさかだよ」
だが黒猫はまた言った。
「俺はな、しゃべれるんだよ」
「嘘つけ」
それでも彼はそれを必死に否定しようとした。
「これは夢だろ」
「夢なんかじゃねえよ」
黒猫はそれを否定した。
「夢だったらほっぺたをつねってみな。よくわかるから」
「わかったよ。それじゃあ」
それで実際につねってみた。すると痛かった。
「どうだい?わかったかい?」
「ああ」
認めるしかなかった。これは夢ではなかった。
「本当の話だったんだ」
「そうさ。話せる奴は俺の他にもいるぜ」
「犬や鼠も?」
「そうさ、烏や雀もな」
黒猫は言った。
「かなりの数の奴が話せるようになってるぜ」
「どうしてそんなことになったんだい?」
「知りたいか?」
「それはね」
晃は答えた。
「だって。普通動物が人間の言葉を話せるなんて有り得ないから」
「そうだよな。じゃあまあここじゃ何だから」
猫は辺りを見回してからまた言った。
「場所を変えようぜ。いいかい?」
晃は猫を自転車の籠に入れて出発した。そして自分の家に帰った。
「お帰りなさい」
すぐに母親が出迎えてくれた。
「あら、猫」
そして息子が猫を抱えているのに気付いた。
「どうしたのよ。拾って来たの?」
「うん」
晃は答えた。
「ちょっとね」
「その猫は話したりなんかしないわよね」
「まさか。そんなことあるわけないじゃないか」
本当のことなぞ言える筈もなかった。晃はここは黙っておくことにした。
「道で捨てられていたのを見つけたんだけれど。どうしようかな」
「そうね」
実は
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