彼らの平穏、彼らの想い
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とか。
それに加えて、今日の彼女は段違いの力を見せつける。
「ま……幻の左……」
使われるはずの無かったその手が、今日は解き放たれたのだ。
残像を伴ったそれは“二人”の男を吹き飛ばした。たった一回の平手打ちで、屈強な兵士二人が見事に飛んで行ったのだ。
ゴクリ、と生唾を呑み込むもの多数。その場は異様な空気に包まれた。恐れが半分……しかし度し難いことに、歓喜が半分。
単純に詠に殴られることが嬉しいというのもあるにはあるが、彼らが歓喜するのは別。
こういう時に、彼らが愛してやまない一人の少女が必ず動く。
「え、詠ちゃん、そこまでしなくても……ごめんなさい。だ、大丈夫ですか?」
月である。
おろおろと慌てながら慎ましやかに声を出せば、彼らの表情は皆綻ぶしかない。慌てて吹き飛ばされた兵士の側に向かう彼女に、ほっこりしない輩がいないわけがない。
癒し系子犬系なその少女の姿には、誰派構わず男共の頬が緩む。彼らとて、可愛い女の子が大好きな男だから。
「へへ、へっちゃらでさ。えーりんに殴られて逝けるならほんも……ぐふっ」
茶番劇だが、そうして死んだふりをする男は次に彼女が手を握ってくれると知っている。
無意識でいつもしてしまう月は天然で男殺しであると言えよう。
そんな事はさせまいと、誰もが思う。選ばれた一人になるのは自分だと。抜け駆けだけは許されないのだ。
「そうは問屋がおろさねぇ!」
「一人で死んでろ!」
「良い想いしようったってそうはいかねぇかんな! 死ねぇ!」
「ぐはぁっ、やめ、お前らから蹴られても、いて、嬉しくねぇんだよぉぉ」
「ほらほらぁ、無様に這いつくばって希え!」
「副長が居ないからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!?」
「ゆえゆえ派の結束を乱す輩には死、あるのみ!」
幾多の練兵で積み上げた研ぎ澄まされた動きを以って、そのバカ野郎に罰を下す。神速もかくやという程の速度で、彼らは罪人に近寄り、蹴る。
それが彼らの日常で、本当に下らないやり取り。
嗚呼、と月が声を上げた。目の前でげしげしと足蹴にされる男。蹴るのを止めてと言おうとしても、何故か蹴られている側も楽しそうなのだから止めるに止められない。
おろおろと止めようかと迷っている間に、詠がその手を掴んで他の場所へと誘う。
「向こうで飲みなおすわよ。こいつらそろそろ喧嘩し始めるから危ないもん」
初めは楽しそうでも、いつでも必ず喧嘩に発展する。そしてどちらが勝つかで賭けたりとソレを楽しんだりもする。
詠は彼らがどういった流れでそうなるのかを既に看破している。いや、ある程度のモノなら誰でも分かる。おっとりゆったりほんわかしている月には分からないが。
そのうちそんなことしなくなる、と月はいつ
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