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第一章
産女
車屋朔太郎は織田家に仕官することができた。それまで仕えていた斉藤家が滅び滅ぼした織田家にそのまま仕える形となった。戦国ではよくあることだ。
しかしであった。その彼が新たに主になった織田信長に最初に言われたことはよくあることではなかった。いきなり彼の前に呼ばれこう言われたのだ。
それまでの稲葉山城は岐阜と名前を変えられていた。朔太郎が聞いたところによるとその信長が天下布武を目指しそれで名前を変えさせたというのだ。
「それで岐阜なのか」
「ああ、そうらしいな」
彼と同じく斉藤家からそのまま織田家に仕えることになった同僚が話す。
「今度の殿様はそれで城の名前を変えたらしいな」
「何か凄い話だな」
「しかもな。清洲からその岐阜に移られた」
信長は本拠地を変えたのだ。これまでの本拠地だった清洲城からその岐阜に入ったのだ。つまり尾張から岐阜城のある美濃に入ったのだ。
そしてだ。彼はその信長に呼ばれたのである。
彼の前に連れられるとだ。細面で白い顔の鋭利な顔立ちの男がいた。顔は整っているが険しい。今にも怒り出しそうな顔をしている。
身体は細く背は高めだ。座っているがそれでもわかる。その彼が織田信長であった。
信長は彼の姿を見るとだ。すぐにこう言ってきた。
「車屋朔太郎であるな」
「はい」
信長の問いにそのまま答えた。
「左様でございます」
「その方の話は聞いている」
信長はこうも言ってきた。
「それでじゃ」
「はい」
信長は単刀直入に入ってきて朔太郎もそれに応えた。
「そなたにこれからやってもらいたいことがある」
「といいますと」
「すぐに大垣に向かえ」
「大垣にですか」
「そうじゃ。そこに向かえ」
こう朔太郎に命じるのだった。
「よいな」
「大垣にですか」
「聞いたところ今大垣の河辺に奇怪な噂がある」
ここで信長の顔がぴくりと動いた。
「何でも川辺に赤子を抱いた女が出て来るそうだ」
「赤子を抱いたですか」
「そうじゃ。それにじゃ」
また話す信長だった。
「その赤子を抱けば恐ろしいことが起こるという」
「恐ろしいことがですか」
「抱いて生きた者はおらん」
そうだというのだ。
「抱いていると次第に重くなって潰されてしまうというのじゃ」
「赤子の重さにですか」
「うむ、それを実際に見た者がおる。あやかしの類の様じゃな」
「あやかしですか」
「その様な輩を放ってはおけん」
信長の今の言葉は単刀直入であった。
「それでじゃ。あやかしならば退治でよ」
「接写にそのあやかしの退治をですね」
「その通りじゃ。すぐに向かえ」
こう言ってであった。朔太郎はすぐに大垣に向かうことになった。
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