暁 〜小説投稿サイト〜
小僧の豆腐
1部分:第一章
[1/2]

[1] 最後 [2]次話

第一章

                      小僧の豆腐 
 大阪で一つ噂になっていることがあった。
 それが何かというとだ。豆腐であった。 
 雨の日に街を歩いているとだ。そこに小僧が出て来るのだ。そしてその手に持っている豆腐を差し出すというのだ。皿の上に乗ったその豆腐をである。
 そうした噂が広まっていた。思えば変わった噂であった。
「豆腐かいな」
「そや、豆腐や」
 難波の食堂であれこれと話していた。サラリーマンの二人が洋食を食べながら話をしている。丁度梅雨時でじめじめした雰囲気の中で話をしている。
 そのうちの眼鏡の男がだ。エビフライ定食を食べながら言うのである。
「豆腐を差し出してくるらしいわ」
「豆腐をねえ」
 オールバックの男はそれを聞いていぶかしむ顔になった。その顔でカレーを食べている。見ればそのカレーは御飯の中にまぶしてある。
「何で豆腐やねん」
「それは僕も知らんわ」
 眼鏡の男は首を横に振って答えた。
「何でかはな」
「豆腐屋の宣伝とかか?」
「それやったらもっと他にやり方あるやろ」
 眼鏡の男はこうオールバックの男に返した。
「佐川君、君やったらどうする?」
「どうするってか」
「そや。君やったらこの場合どうする?」
 オールバックの男の名前を出しての問いであった。
「この場合は」
「そやな。自分の店の前で食うてもらうな」
 佐川はカレーを食べる手を少し止めてこう答えた。カレーには卵が入っていてソースも混ぜているのか少し黒い。それをかき混ぜて食べているのだ。店の中は木の壁で結構狭い。しかしその狭い中に客が結構入っている。そうした場所である。
「それが一番やろ、安倍川君」
「そやろ、僕かてそうするわ」
 佐川も安倍川というその眼鏡の彼の言葉に頷いた。
「やっぱりな」
「おかしな奴やな、その小僧は」
「ああ。問題はその小僧が何者かっちゅうことや」
 佐川は首を傾げさせながらそのことを問うた。
「それやな、肝心なのは」
「悪ガキやろか」
「まあ豆腐に毒とかは入ってへんやろ」
 佐川はそれはないと見ていた。
「流石にな」
「そやな。それは流石にないやろ」
 安倍川も佐川の今の言葉には頷いた。
「そこまで悪質やとは思えへんわ」
「そやな、ほなちょっとその豆腐食べてみるか」
「食べるんかいな」
「おもろないか?それって」 
 笑いながらの言葉だった。
「それもな。おもろいやろ」
「まあそやな。実際に何で豆腐持って街におるかわからんしな」
「会ったら食べてみるわ。絶対にな」
 こんな話をしていた。そのうえで雨の大阪の中にいた。そして佐川はその雨の仲のある日にだ。仕事帰りの難波で一杯引っかけていた。
 夜の雨の難波も風情がある。法善寺横丁で
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ