月の光
[8]前話 前書き
報告書に「轟沈」の文字を書き入れた時、私はどうもその先を書くことが出来なくなった。
この先を書こうが書くまいが、事実は変わらない。そんな事は分かっている。だが、報告書にこの文字を書き込む度に、どうしても手が止まってしまう。
それを書く度に、自分の周りから、大切な者が消えて行く。そして全て消える。私は孤独という闇に閉じ込められる。
そんな気がしたからだ。
私は無性に月が見たくなった。
あの優しい光に、包まれたいと思った。月に救いを求めた。
フラフラと立ち上がり、私はカーテンを開けて、空を見上げた。
空は、真っ暗だった。
その日は、新月だった。
言葉では到底表しきれない様な負の感情が、胸の内から溢れ出してきた。
胸が苦しい。
私は、真っ暗な空を、ただ睨み付けた。
必死に涙を堪えた。
泣いてはならない。
そうだ。私が月でなければならないのだ。
私が希望にならなければならないのだ。
自分にそうやって言い聞かせた。
コンコン
不意に、ドアがノックされた。
私が、入れと言うと、秘書艦の川内が入ってきた。
「こんな夜中にどう...」
用件を聞こうとした私の言葉は、途中で途切れた。
川内が、私に抱きついて来たからだ。
私は呆気に取られて、無言になっていた。
「提督、元気出た?」
川内はそう言いながら、私の目を見つめた。
私は、相変わらず固まったままだった。
「提督はさ、無理しすぎなんだよ。」
川内の腕の力が、少し強くなった。
「・・・ねぇ、提督。私はさ、ずっといるから。提督の側に。ね?」
彼女は艦娘。いつ沈むかも分からない身。
だが不思議と、その言葉は私を落ち着かせた。
「月は、ここに有ったか。」
そんな言葉が漏れた。
「え?」
「いや、なんでもないよ川内。」
まだ、やっていける。
暗闇の中に、希望が見えた気がした。
「ありがとう、川内。」
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