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戦国異伝
第二百六話 陥ちぬ城その十

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「一兵も失わずに苦しめ」
「あらためてじゃな」
「人を送り」
「降そうぞ」
 石田は出来る限り血を見ることを避けることにしたのだ、忍城が堅城であるがこそだ。なおさらそうすることに決めてだ。
 そのうえでだ、早速水攻めの用意に入った。堤を築きその上に逃げられる様にしてだ。そこからさらにだった。
 水を引く用意をしていた、それは城からも見られた。城の者達は織田方の動きを見て顔を曇らせて話した。
「まずいのう」
「うむ、水じゃな」
「水攻めの用意じゃな」
「それにかかっておる」
 このことをすぐに見抜いた、だが。
 その織田の陣の守りを見てだ、苦い顔で言った。
「まずいな」
「うむ、敵の守りは固い」
「迂闊には攻められぬ」
「堤を崩さねばならぬが」
「敵の守りは固い」
「どうすればいい」
「このままでは水攻めに入られるぞ」
 そして、だった。
「そうなればな」
「この城は沼に囲まれておる」
「城を守っている沼の水が逆に我等の敵になる」
「水が我等の害となる」
「何とかせねばならぬ」
「敵の堤を崩すべきだが」
「あの守りでは」
 彼等は自分達の行く末に嫌なものを感じていた、だが。
 甲斐姫は自身の父にだ、確かな声で告げていた。
「父上、あと数日で」
「敵の堤がじゃな」
「出来上がり」
「そして水が引かれてじゃな」
「はい、そしてです」
 そのうえでというのだ。
「城が水に包まれてです」
「水攻めを受けるな」
「ですから」
 それで、というのだ。
「敵が水を引こうとした時」
「その時にか」
「私に攻めさせて下さい」
 父に対してだ、強い声で言うのだった。
「そうさせて下さいますか」
「出来るのか」
「はい」
 間違いなく、という口調での言葉だった。
「左様です」
「そうか、ならば」
「その時はお任せ下さい」
「敵の守りは固い、気をつけよ」
「それはわかっております」
「そして敵将もな」
 その彼等もというのだ。
「石田殿じゃが」
「政の方で有名な方ですね」
「あれでどうして勇もある」
「いくさ人でもありますか」
「采配もそこそこでしかも相手が誰でも臆することはない」
「敵に背を見せる方ではありませんね」
「そして家臣や兵達、友を見捨てることもしない」
 石田はそうしたことは絶対にしない、間違っても誰かを見捨てて自分だけ逃げる様な男ではないのだ。それもまた石田だ。
「だからだ」
「攻めてもですね」
「強い」
 その守りが、というのだ。
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