5部分:第五章
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第五章
「生きている年季の味がするよ」
「伊達に長生きしていないからね」
「そうそう」
湯飲みと茶釜が話す。彼等は宙にふわふわと浮かんでそれぞれ話す。
「おかみさんが生まれた時にね」
「やって来たお湯飲みさ」
「何だい、その言葉は」
お桂は今の湯飲みの言葉には目を少ししばたかせた。
「変わった言葉だね」
「ああ、今思いついたんだけれどね」
「そうなのかい」
「どう?それで」
お桂の口元で言う。自分から飲ませてきているのだ。
「この言葉」
「悪くはないね。むしろいいね」
「そう、だったらいいけれどね」
「そうだね。ところでだよ」
お桂はここで言葉を変えてきた。
「宿六はどうしてるんだい?」
「宿六って?」
「旦那さんのこと?」
「そうだよ、そっちにも行ってくれないかい?」
こう言うのである。
「それで一杯ね。飲ませてあげてね」
「うん、わかったよ」
「それじゃあね」
彼等もそれに頷いてだ。すぐに店のところにいる文衛門のところに行く。そうしてそのうえで彼にも飲ませる。こんなことがあった。
筆と硯はだ。自分で動く。自然と字を書いている。
「ほお、これは便利だな」
文衛門はそれを見て呟いた。
「自分で書けるのか」
「旦那さんが書きたいこと言ってよ」
「こっちで書くからね」
彼等の方もこう言ってみせる。机の上で筆が自然に動き紙に書いていく。そして硯もだ。自分から墨をすってそのうえで水に溶かしていっている。
その墨も文字もかなり立派なものだ。少なくとも文衛門がすったり書いたりするものとはだ。全く違っている。
「ううむ、この文字は」
「どうしたんだい?」
「何かあったの?」
「俺が書く字よりずっと奇麗だな」
実際にそうだった。彼が書くよりもだ。
「こんな奇麗な字は絶対に書けないな」
「だって僕達これが仕事だしね」
「書くのがね」
「それも当然だよ」
筆も硯も笑顔で話してみせた。
「こうして書けるのもね」
「当たり前っていったら当たり前かな」
「そうだよね」
しかも連携もしっかりとしている。完璧であった。
「しかも年季もあるしね」
「それもあるから」
「俺よりも古いってのかい」
文衛門は彼等が文字を書いていくのを見ながらまた述べた。
「そうだっていうのかよ」
「うん、だって先代が子供の頃からだしね」
「使ってもらってたから」
「それでか」
それを聞いて納得した文衛門だった。
「それでだってのかい」
「そうだよ、物だって使えばね」
「これは前にも言ったけれど」
「そうだったな。しかしあれだな」
文衛門はまた言うのだった。
「最初はびっくりしたけれどな」
「そうそう、驚いたでしょ」
「それがいいんだよ」
驚
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