三話:疑問
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く。
「そう言えば…ずっと聞きたかったんですけど……」
「なんだね、言ってごらんなさい」
何やら、言い辛そうに口をモゴモゴさせているフェイトにヴィクトルは優しく穏やかな声をかける。そんな声に勇気が出たのか、フェイトがか細い声でヴィクトルに尋ねる。
「ヴィクトルさんは……元の世界には帰りたくないんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ彼の顔が動揺で歪むが、それは顔を隠す仮面と大人になって身に付けられたポーカーフェイスでなんとかフェイトに隠し通すことが出来た。フェイトはずっと不思議だったのだ。何故、彼は自分の元居た世界に帰りたいと言わないのかと。
彼は恐らくは次元漂流者と言われる類の人間だろう。そういった人間の保護は本来なら時空管理局と呼ばれる次元世界を管理・維持するための機関の仕事なのだが、生憎、今の自分達のやっている行動はその管理局に敵対する行為なので間違っても頼ることは出来ない。
しかし、何も知らないヴィクトルに存在を教えるだけならまだ大丈夫かもしれないという理由もあって自分達がやっていることをヴィクトルに教えないのだ。だが、そんなフェイトとアルフの気遣いも虚しく、ヴィクトルは一度たりとも元いた世界に帰りたいと言うどころかその素振りすら見せないのだ。その事に以前から疑問を抱いていたのでこの機会に問いただしたのである。
「……私は帰りたいは思わない」
「どうしてですか?」
なおも訪ねて来るフェイトの目が真っ直ぐ見つめられなくなり、ヴィクトルは顔を俯かせ、切なげな表情を浮かべる。帰る場所というのは、誰かが自分を待ってくれている場所である。それが彼の思う帰る場所である。だが彼には―――
「お帰りと言ってくれる人がいないから……かな」
「え……」
その言葉に絶句するフェイト。その返事に冷たくなった空気を変えるためにアルフはそんなことは無いとばかりにヴィクトルに問いかける。
「仲間とか家族がいるんじゃないのかい?」
「仲間も、父も母も、そして兄も妻も、皆……死んだ……どこにも居ない」
その返答にアルフは血が凍り付く様な感覚に陥ってしまう。いくら何でもそれは辛すぎる。自分の大切な者を全て失った彼は一体どれだけの絶望の中で生き続けて来たのかは彼女にはとてもではないが想像できない。それに彼は死んだと答えたが正確には殺したである。
母だけは彼が幼いころに死んだので彼が手をかけたわけではないが、実は腹違いの兄であるユリウスが息子を狙った、追ってだと誤解されて襲い掛かって来たヴィクトルの母を誤って殺してしまったのである。その事からも彼の人生が如何に血に塗れているのかが分かるだろう。
そして、なによりも彼の帰るべき世界は比喩抜きで
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